浜辺 渚

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「ねぇ、本当に行っちゃうの?」
「うん。僕に行かないなんて選択肢は与えられていないんだ。この国に生まれて、育ってきたからには、命を賭して守る義務があるんだ」
「嫌だ!死んじゃ嫌!」と娘は怒鳴った。
「大丈夫。あくまでそういう心づもりを持っているというだけだよ。そもそもお父さんが行くのは、戦線のかなり後ろの方なんだ。戦ってる人の支援をするのがお父さんの仕事なんだよ」
「絶対死なない?」
「死なないさ。お父さんはあまり良い奴じゃないからね。太宰治の『斜陽』でも書かれてたけど、悪いやつは中々に図太く生きるのさ」
「約束して。指切りげんまん」と娘は言って、小指を僕の方に伸ばしてきた。
僕はしゃがんで、その小指に自分の子指を絡ませた。
「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます」」

3/4/2025, 3:25:48 PM