ミミッキュ

Open App

"麦わら帽子"

「あっっっつい…。」
攻略法を考えていたが中々に難航して、気分転換にと思って「外の空気吸ってくる」と言い、病院の外に出てきたんだが…。あまりの暑さにぐったりとベンチにへたりこんで気分転換どころじゃ無くなってしまった。別に気分転換なら外に出なくたってできるし、中に戻って…と思ったけど…、暑すぎてもう1歩も動けねぇ…。頭も痛くなって来たし…。
立派な脱水症状を起こしてきて、もうここからどうすればいいのか分からなくなってきた。汗が頬や首筋を伝う。俺はこのまま死ぬのか…?、なんて縁起でもない事が頭をよぎる。もう限界…。意識を保つのが辛くなってきた…。
「も、う…ダメ、だ…。」
意識が朦朧とする中そう呟く。
と、視界に影が降りた。同時に頬に冷たい何かが当てられ、意識が強制的に引き戻される。あまりの冷たさに驚き思わず「ヒャッ!?」と情けない声を上げる。
「全く何をやっている。」
と、隣から呆れた声色が聞こえた。声がした方向を見ると、そこに飛彩がいた。片手にはそこの自販機で買ってきたのだろう、温度差で結露し汗をかいているペットボトルのポカリが握られていた。恐らく俺の頬に当てられたのはそのポカリだ。それと頭に違和感を感じて手探りで違和感の正体を探る。これは、帽子?…あと、この感触は…麦わら帽子か。
正体を突き止めると、飛彩が「飲め」とポカリを突き出してきた。「お、おう…」と少し驚きながら受け取ると、キャップを開けようと力を入れる。が
「ん、んんっ…んーっ!!」
手汗をかいてるせいか、それとも残っている力が足りないのか…両方だろう。滑ってキャップを開ける事が出来ない。
「ほら、貸せ。」
と、片手を差し出して渡すよう促してきた。素直にその手の平の上にポカリを置くと受け取り、キャップを開けてくれて俺に返した。
「あ、ありがと…。」
礼を言うとペットボトルに口を付けて中のポカリを流し込む。とても冷たいポカリで喉が潤うと同時に、ポカリの成分が脱水して水分と塩分を欲していた体に染み渡り、さっきまでの頭痛が和らいでいって朦朧としていた意識も戻ってきた。
「ふぅー…、ありがとな。それと、悪かった…。」
お礼と謝罪を混ぜた言葉を紡ぐと
「はぁ、全く…。それでも医者か?」
ため息混じりに文句を言われた。ムッと顔を顰めてそっぽを向き
「うっせぇ。…医者は医者でも、無免許医ですよぉーだ。」
と、口を尖らせながら小声で返すと「フフ」と小さな笑い声がした。
「何笑っていやがる!?」
声を荒げながら、また飛彩に顔を向ける。見ると飛彩は人差し指を口に当ててクスクス笑っていた。んにゃろォー…。
「貴方でも子どもの様な事を言うのだな、と思って…フッ。」
言い訳を述べながらまた笑う。
「悪かったな、ガキみてぇな事言って!!」
と、声を荒らげるがお構い無しに笑い続けている。…どうやらツボに入ったらしい。謎すぎんだろ、コイツの笑いのツボ。
「いつまで笑ってやがる!!そんな揶揄うんなら別れんぞ!!」
また声を荒らげ今度は、別れると言ってやる。が、そう言ってやると心がズキン、と痛んだ。飛彩も心を痛んだのか、先程まで笑い声を上げていたのがピタリと止み、笑っていた顔が一瞬で悲痛な顔になる。
「い、今のなし…。その、悪い…。酷い事、言って…。」
と、すぐに言葉を撤回し謝る。すると不意に正面から抱きしめられ
「俺こそ、笑って…貴方に辛い事を言わせて、悪かった。」
そう優しく囁く様に耳元で言われる。少し、ゾクッとするがすぐに首を振って飛彩の背中に腕を回し抱きしめ返す。が、すぐに飛彩の体を押しのけて
「ば、バカ野郎っ…ここ外!!」
と言うと「あ」と小さく声を上げ「そうだった」と言葉を続ける。コイツゥ…ッ。
「…っ。」
と睨んでいると、飛彩がおもむろに立ち上がり
「ほら、立てるか?」
と、片手を差し出してきた。テメェ…ッ、なんも分かってねぇだろ。ホンットそういうトコな、テメェ。口に出しそうになった言葉をグッと飲み込む。恥ずかしいが、恐る恐る飛彩の手の平の上に自分の手を乗せて握る。握ると、手を引っ張られながら腰を浮かせて立ち上がる。立ち上がってすぐ手を離して目だけを動かし辺りを見回す。幸い人1人通っておらず、誰かに見られた心配はない。良かった、と胸を撫で下ろす。
「あ、そういや…。」
飛彩に返そうと、頭に被された麦わら帽子に片手を伸ばすと
「いや、それはお前にやる。それより、そろそろ戻ろう。」
そう言われ「お、おう…。そう、か」と、伸ばしかけた手を引っ込める。お言葉に甘えて、麦わら帽子を貰う事にした。俺が手を引っ込めたのを見ると病院へと足を向けて歩き出した。一瞬遅れて俺も病院へと足を向けて、飛彩と戻る事にした。

8/11/2023, 12:14:47 PM