思い出

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「夕ご飯の時間よ、早く来てー。」

二階の自室で、私が本を読んでいると
一階の廊下辺から、緩い義姉の声が聞こえた。

私は栞を挟んで本を閉じ、机の上に置きながら、

〔はーい。今行きます。〕

そう返事をした。
姉の、

「は~い。」

と、さっきよりも間延びした緩い返事が来る。

私が自室を出て、一階に降りて行く途中、スパイスの香りがした。
階段を降りていくに連れ、香りが増える。
蜂蜜のようなまったりとした甘い香りと、果物特有の甘酸っぱくて、爽やかに感じるとても良い香りだ。

先程まで本に集中していたために気付かなかったが、
私は今、とてもお腹が空いている。
良い香りが鼻腔を擽る様に通り過ぎてゆくたび、
期待に、鼓動が踊る。
きっと、今日の夕飯は。

「はい、お姉ちゃん特製甘口カレーよ。
今日のカレーの隠し味は、蜂蜜と、林檎よ。
いっぱいあるから、たくさん食べてね。」

義姉は、白米が既に乗っている皿に、
その特製カレーをたっぷりとよそってくれた。
人参、じゃがいも、玉ねぎ。あとは、お肉。
具材が沢山入っていて、とても美味しそうだ。

私は、義姉特製のこの甘口カレーが大好きだ。
いつもは中辛派なのだが、このカレーだけは全く別物で。
私は、溢れてしまう笑みを隠そうともせずに、皿を受け取った。

〔ありがとうございます。今日のご飯もとても美味しそうですね。〕

義姉は、

「ふふ、ありがとうね。」

と言って、自分の分をよそっている。
声色は、先程よりも明るく、嬉しそうに聞こえた。

自分の分をよそり終えると、私の向かいに皿を置いて、
座る。
こうやって、向かい合いの状態で食事を取るのが、
優しい義姉のルールだ。
喧嘩した日も、笑い合った日も。どんな日も、向かい合いで食事を取る。

いつか、優しい義姉を、お姉ちゃんと呼びたい。
お義姉さんとも、まだ数回しか呼べて無いけれど。
今はまだ、緊張してしまって無理だけれど。

そんな気持ちを胸に秘め、手を合わせた。
それじゃあ、いただきます。

8/25/2023, 10:47:51 AM