パラレルワールド
親友という立場や性別の壁に甘え、何事もなく高校を卒業したあの日。……後輩から告白されている、彼を見てしまった日。
高校3年間ずっと隣にいたから、彼が皆から好かれているのは知っていたけど。初めて直接見て、自分が思うよりも動揺してしまった。
遠くから見える彼は、困ったように笑っていた。相手と話している所は見た事が無かったから、一目惚れでもされたんだろうと思う。
彼の屈託のない笑顔を幾度も見てきた俺も、いつもドキッとさせられていたから。
告白を殆ど隠れるようにして聞いているのは罪悪感しかなかったけど、下手に動けもせず聞いていた。
ごめん、と彼の声が聞こえたのは直ぐだった。他に好きな人がいるんだ、という静かな声と共に、生徒が走っていく姿が見える。
頬に光るものを見付けて、俺はつい身動ぎをしてしまう。少し音がなって気付いたのか、彼がこっちを見た。
「……いたのかよ」
俺の方を見ると同時に呆れたように言った彼に、まあ、と曖昧な返事をする。盗み聞きなんて趣味の悪い事をしてしまったのをいたく後悔した。
彼は何故か俺の顔をじっと見た後、制服の第二ボタンをくるくると手で弄りながら言った。
「――俺さ、お前の事好きだよ」
「……え」
その言葉に脳がクラッシュする。思考が停止しかける前に、高速でその内容を噛み砕く。
好き?どういう?でも、多分だけどこの言葉の前は告白についての会話だから――。
俺も好きだ、って言おうとして……できなかった。
「いや、好きだった……かな。お前に迷惑だろうなって思って、もう好きじゃなくなった。こんな事言われて迷惑かもだけどさ、ケジメだけ付けさせて!」
彼がそう、屈託のない笑みで言ったから。唐突な気分の上下に何も反応できずにいると、彼は困ったよつに眉を下げて。
「それじゃ、また会おうな!」
そのまま大きく手を振って、駆け出していった。……卒業証書を抱えてどこまでも止まらず走っていく。俺は彼の姿が消えるまで、ずっと眺めていた。
なんて、なんて神様は酷いんだろう。思いが報われると一瞬でも期待を抱いたのが、馬鹿みたいだった。
俺はまだ、こんなに好きなのに。彼は……。ああ、彼がまだ俺を好きなパラレルワールドにでも、行けたらいいのにな。
9/25/2025, 10:50:08 PM