渚雅

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「最悪」

それはあの人の口癖だった。息を吐くように放たれるその言葉は心を重く淀ませる。自分が悪いのだと知っている。けれど八つ当たりでもあるのだからタチが悪い。

逃れたくても逃れられない空間でまたひとつ 呪詛が生み出される。言霊なんてものが本当にあるのな,らこの場所は空気を吸うだけで即死するほど呪われていることだろう。そんな想像に小さく笑ってしまえばまた上から声が責めたる。


「本当に最悪」

こちらを睨めつけるその濁った瞳に映るのはきっとつまらない世界。空虚に捕われ何も見えない盲目。目の前にいるはずのこの姿すら見えていない。

何かに当たらなければ生きていけないのならこの人はどこまでも寂しく悲しい人だと思う。使うはずの言葉に惑わされ感情を消耗する。最良以外全て最悪などこまでも極端な思考回路。


「あなたはいつでも最悪だね」

もし最悪なんてものがあるのなら。それはきっとあなたが気づいていないこと。言ったところで変わらないなんて当然の事実を。いつまでもずっと目をそらす。

だから きっとこれも最悪で最悪じゃない出来事。だって,全部最悪ならそうじゃないのと同じ。


「さよなら」

大好きだったよ。今でも好きだよ。でもこのままじゃ何も変わらないからお別れ。

最悪ではないこの感情を表す言葉が欲しい。頬を伝う雫が風に晒され冷たくて凍えそうになるから。またね とは言えなかった。

6/6/2023, 12:53:12 PM