仕方がないことだと、わかっていた。
それでも私は悲しくて、寂しくて、辛かった。
いっそのこと、君を止めてしまいたかった。君に、夢を諦めるように言いたかった。
────でも、無理だった。幼い頃からの夢を、追って粉々にしたくなかった。
だから、手紙を書いた。私は意気地無しで、弱くて、自分の思いを直接言えないから。
内容は単純だ。『いかないで』『私も連れて行って』というようなことを、ただただ述べただけだ。
本当はわかってる。君の夢を叶えるためにはここを出るしかなくて、私は置いて行かれなければならないって。
それが本当は、口だけなのもわかってる。
心の中では、受け入れられずにいることも。
君と並んで、私の好きなバンドの特集を見る。
「やっぱいいな、このバンド。お前、見る目あるな。」
「あははっ、ありがとね。」
そんな会話をして、推したちの声を聴く。
一生、この時間が続いてほしいと思ってしまう。
思ってしまったから、言ってしまった。
「諦める気は無いの?」
でも、君はいつもみたいに含羞むような笑顔で言うんだ。
「ないな。俺の夢────お前がくれた、俺の夢なんだからな。」
特集を見終わると、私はすぐに手紙を隠した。
机の引き出しの、鍵がないと開かないところに突っ込んだ。
捨てるべきだと思ったが、それは出来なかった。
勿体ないと、思ってしまったのだ。
後悔はしなかった。────後悔している自分自身に、気付かないふりをしていただけかもしれないけど。
翌朝、君は玄関の前に立っていた。その手にはスーツケースがあり、君の好きなバンドのキーホルダーがついている。
「それじゃ、行ってくる。」
「うん、行ってらっしゃい。頑張ってね。」
「あぁ。────また、逢える日まで。」
「うん。」
君が私に背を向け、ドアを押して出ていく。
君が振り返らないことを願った。────泣いているのを、知られたくなかったから。
#隠された手紙
1週間ぶりの更新です。ごめんなさい。
低頻度で低クオの作品を書きます。ごめんなさい。
あ、そうだ。数学の課題なんとか終わって、テストもなんとかなりました。
2/2/2025, 3:46:59 PM