美坂イリス

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 夏の匂いがする。耳に届くのは、蝉の混声合唱と遠く波の音。
「あっつい……」
 自転車を漕ぎながら、私は思わずそう呟く。それもそうだ、道ばたの温度計は三十四度を表示している。
「前はこんな暑くなかったと思うんだけどな……」
 聞いた話だと、昔は普通にエアコン無しで生きていけてたらしい。……無理だ。
 そのうちに道は下り坂になり、肌に当たる風が少しずつ熱を冷ましてゆく。やがて、目の前には青く広がる海。潮風は強く、私の髪を揺らして吹き抜けて行く。

 もしも、この風に色があるのならば。きっとそれは、青く輝いているのだろう。空を見上げて、私は澄み渡る夏の空気へ手を伸ばした。

7/14/2025, 10:18:23 AM