「音が鳴ったらボタンを押して教えくださいね」
では始めます、その合図の数秒後に赤と青のヘッドホンから交互に機会音が鳴る…と思っていた俺は、機械の異変にすかさず手を挙げ、看護師に声を掛けた。
「スミマセン…これ機会音ではなく人の声が流れてくるのですが」
ここは病院。亡き霊の想いがこの機械を通して俺に訴えかけているのでは。顔を青くする俺を見て看護師はフフと笑みを溢した。
「そりゃあ、聴力検査ですからねぇ。聴こえてくるということは心の声にしっかりと耳を傾けられているということですよ」
キョトンとする俺をよそに「ハイ、じゃあ続けますよー」と聴力検査は再開された。
慌ただしいこの世の中、精神的疾患を患うものが年々急増。その為、健康診断では精神状態を検査する項目が義務付けられた。
聴力検査はその名の通り、聴力を検査するのに加え、脳内にある自分の欲求をいかにキャッチできているかを診断する…らしい。
「ちなみに右からは海鮮、ラーメンという言葉が。左からは距離や時間などがつらつらと流れてきました」
最近は忙しくて、栄養補助食品にお世話になりっぱなしだったことを思い出した。
「近くの百貨店で北海道物産展がやっているらしいですよ」
身支度を整える俺に看護師はそう教えてくれた。
今日は終わり次第、直帰して良いと許しが出ている。久しぶりに残業もない。
俺は百貨店の営業時間を調べ、車を走らせるのであった。
『耳を澄ますと』おしまい
5/4/2026, 2:40:19 PM