浜崎秀

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どうしてかな、あなたはいつも傷だらけで帰ってくる。あなたのことだからきっとまた誰かを助けて無茶したのだろう。
「みんなが無事ならそれでいい」ってあなたは豪快に笑うけれど。
「みんな」の中にきっとあなたは入っていない。
私にできることは帰る度増やしてくる傷の手当てと、別れ際の「気をつけてね」の言葉だけ。
もっと自分を大事にしてほしい。私たちの身体は、もうすぐ私たちだけのものじゃなくなるから。
最後の任務の日、彼にそう伝えた。彼は驚いていたけれど、力強く「必ず戻る」ってそう言ってくれた。



あの日から20年が経った。私たちの息子は立派に成長し、父親の仕事を志すようになった。会ったことはないはずなのに、彼に似て強く優しく育った。
だから私は反対した。息子もきっと、彼と同じように遠くへ逝ってしまうんじゃないかって。それが怖かった。
息子は「大丈夫」って根拠もなく笑う。
ああ、まただ。目元がクシャッとなるその笑い方。そうやって笑いかけられると何故だか安心してしまう。
「気をつけてね」別れの日にでた言葉はそれだけ。「自分を大事にね」本当はそう言いたかったけど、不吉な気がしてやめた。
代わりに心の中で彼に祈る。
『あの子を守ってあげて』
風が吹いた。
「任せとけ」
なぜだか、そう言われた気がした。

『大事にしたい』

9/20/2022, 3:13:48 PM