白眼野 りゅー

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【空白なんて、どこにも】


「授業中、ずっと君のこと考えてた」

 ……こんな言葉に一喜一憂してはいけない。

「授業で一番楽しい時間は演習問題を解いてる時だ。問題のことを考えてれば、頭の中が空白にならずにすむ。先生の話は退屈で、あんな時間が五十分も続けば私の頭は空白で満たされてしまって、それは、私にとってすごく怖いことだ。頭を空っぽにしておきたくないんだ、私は」

 隙間なく、ぎゅっと詰まった言葉。

「……そっか、うん…………」

 言葉ひとつ探すのに全力の僕には、縁遠い状態。

「だから、君のことを考えている時間は楽だ。少なくとも空っぽにはならない」

 喜んではいけない。僕は所詮、君の空白を埋める梱包材。誰でもいい役割。それがたまたま僕だった、だけ。

「……だから、君がいてくれてよかった」

 こんな言葉ひとつで、僕の脳内は僅かな空白も残さず君で満たされる。

9/14/2025, 6:58:26 AM