__世界は終末を迎えていた。
30XX年、大規模な戦争により人類は滅亡に追い込まれていた。
元々少子高齢化などの社会問題があり、それに今回の戦争が追い討ちをかけこのような悲惨な状況になってしまった。今現在安全な暮らしをできているのは政治家や富裕層の人間のみであり、政府はこの状況に為す術もなく、退廃していった。
街中のビルや電灯などはほぼ全てが崩落し、瓦礫にツタやツルなどか巻きついている。四季折々の自然の美しい景色は消え去り、のびのびと生きていた様々な生物たちは衰退してしまった。
「マスター、このあたり一帯には人体センサーの反応がありません」
「そうか。ありがとう、ロイド」
少し落胆しながらも感謝を告げる。
私はこの世界で相棒であるアンドロイドと共に探偵をしている。戦争によって生死や行方が分からなくなった人達は多く、また彼らを探す人達も多い。
政府は働かなくなり私のような存在は必要不可欠なようで、ありがたいことに仕事は増えてきている。
そんな私を手伝ってくれるのがこのアンドロイドだ。
機体識別番号P–S73。数年前に私が開発したサポートアンドロイド。
番号で呼ぶのはあまり気が進まないのでアンドロイドからとってロイドと呼んでいるが、やはり安直すぎるな。
__今日は子供の捜索をしていた。男女の双子で年齢は12歳、戦争から逃げる際にはぐれてしまって以降行方が分からないとの事だ。
もう3週間は捜索を続けているが、一向に手がかりは見つからない。
「ロイド、都心部へ向かおう。崩れた瓦礫の影などに隠れているかもしれない」
「了解しました。マスター」
薄暗い灰色の空の下を相棒と共に歩き続ける。
もうここ何年かは澄み渡る青空に輝く太陽を見ていない。
「はあ……双子は大丈夫だろうか」
「今の状況から推測するに、安全な場所にいる可能性は低く、生命メーターが低下していると思われます」
「……ああ、いや、私もそう思うが……もっとほら、寂しい思いをしていないか、とか」
「私はアンドロイドです、マスター。ヒトの気持ちは分かりません」
「ああ、そうだよな。分かっている……」
無機質な性格は時に寂しくなるが、一方で冷静にさせてくれる。
「きっと、双子たちは二人ぼっちだよな。この絶望的な世界で、親と離れて生き延びなければならないのは辛いものだろう。早く見つけてやらなければ」
「そうですね。マスター」
「しかし、互い以外に頼れる存在がいないとは、なんとも悲しい限りだ。鬱々してしまうな」
「ええ。マスター」
「……フ、何も考えてないって感じの返事だ。私も昔から研究や開発ばかりで人と会話することは得意ではなかったがお前程ではなかったよ」
「……では、マスターが教えてください。私はあなたのサポートアンドロイドです。あなたのために生きます」
「……ああ、お前にはもっと感情が必要だ。そうだな、お前には……愛の言葉を教えてやろう。」
「愛?」
「ああ。大好きな人や大切な人に贈る言葉だ」
「教えてください」
「あなたに会えて良かった」
「あなたに会えて良かった……」
「いつかお前に大切な人ができた時に言ってやれ」
「はい。マスター」
そんな話をしながら15分程度歩いていると都心部についた。あたりは閑散としている。
「ツバキくん、ユキちゃーん!いたら返事をしてー!」双子の名前を呼ぶ。冬生まれだろうか。
「マスター。この方法は非効率的です」
「これしか方法がないんだ。いいからお前もやるんだよ」
2人で名前を呼びながら捜索を続けるが、ロイドの人体センサーにも反応がないし何より人の気配がしない。
「ここにはいないかな……」
「…あ、あの!」子供に呼び止められる。
「もしかして君は……」
「ぼ、ぼく、ツバキです!」
「ああ、良かった!無事だったんだね」
「はい、それであの……こっちに来てもらえますか?ユキの具合が悪くて……」
ツバキくんに連れられてユキちゃんの容体を見てみると発熱しており意識が朦朧としているようだった。
「ロイド、ユキちゃんに治療をしてやれ」
「了解。マスター」
「ユキ……」ツバキくんが心配そうにユキちゃんの手を握る。
「大丈夫、ロイドはサポートアンドロイドだから、人を治癒するのが得意だ。すぐに良くなるよ」
「うん……実は、ユキとは本当の兄妹じゃないんだ。赤ちゃんの頃に引き取られて、ずっと一緒に暮らしてる」
「そうか……ツバキくんは今、幸せか?」
「……うん。戦争のせいでこんな事になっちゃったけど、ユキと一緒にいれるならどこにいても幸せ。血は繋がってないけど、お父さんたちも、ほんとうの家族だよ」
「そうだな……」
そう告げるツバキくんの声には迷いがなかった。まるで冬の厳しい寒さの中で咲き誇る椿のように凛とした瞳だった。
ユキちゃんの治療を急いで終わらせたあと、ツバキくんも連れて近くの総合病院へ連れて行った。都心部という事もあり人が多いのでまだ機能している病院があって良かった。
「マスター。愛、とは先程ツバキくんが仰っていたことですか?」
「ああ、そうだな」
今も昔も、愛は争いの元にもなりうるもので、また人々の希望で原動力でもあった。いつの時代も、本気で愛する人のことを思ってしたことが罪であったり、また誰かの救いになることがあった。
「マスター。お伝えしたいことが」
「なんだ?珍しいな」
「あなたに会えて良かったです」
「…………フフ、アハハハ!会うも何も、お前を作ったのは私だろう!」
「……使い方が間違っていましたか?私にとってマスターは大切な人です」
「いや……私も、お前に会えて良かったよ」
この殺伐とした世界で、お前となら希望を忘れないでいられる。誰かの救いになろうと動くことができる。
たった二人ぼっち、私たちが行動することで誰かの愛を救える。
「これからもよろしく頼むよ、相棒」
「はい。マスター」
『二人ぼっち』
3/22/2024, 5:13:46 AM