すゞめ

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『新年』

 紅白かまぼこ、伊達巻、煮しめ、厚切りハム、煮豆、鯛と海老の焼き物。
 好きなものを好きな分だけ用意して、おせち箱に詰めていた。
 彼女のいなかった数日間、飾り小物をたくさん用意したため、仕上がりがかなり華美になる。

 派手にやりすぎたかも?

 重箱に入れたナンテンの小物を菜箸で取り出したときだ。
 背中にかわいいのが引っついてくる。

「おはよ」
「おはようございます」
「これ、全部作ったの?」
「あなたがいなくて、夜は暇だったので」
「そっか」

 重箱を見つめたまま、彼女は俺の言葉を肯定も否定もせず受け止める。
 きゅうっと彼女の腕に力が加わり、たまらずに胸がときめいた。
 彼女の腕に手を重ねようとしたとき、プラーンと袖が異様に伸びていることに気がつく。

「その服、俺のじゃないですか」

 俺が着てもオーバーサイズのトレーナーだ。
 体の小さな彼女が着れば、手先はすっぽりと隠れてしまう。
 ただ、昨夜の情事の痕を残した首筋や鎖骨、すらりと伸びた脚を覗かせる襟ぐりや裾の防御力は心許なかった。

「置いてったのはれーじくんでしょ」

 本当に、ああ言えばこう言うな?

 気怠そうに体重を俺に預けているクセに、口だけは絶好調だ。

「わざわざ持ってきてくれたんですね。ありがとうございます」
「え?」
「ノベルティにあなたの温もりまでいただけるとは新年早々、幸先がよさそうです」
「その言い方、やめてくれる?」

 顔をしわくちゃにしているが、俺から離れる気はないらしい。
 朝からバクバクと心臓が暴れ始めるが、彼女の温もりには変えられなかった。

「はいはい。ほら、バンザイしてください」
「あ、ちょっ」

 彼女の制止にかまわずトレーナーをたくし上げた手が止まる。
 大層ご立派な腹斜筋を覗かせたのは想定内だ。
 だが、奥ゆかしく膨らんだ胸と下腹部がダイレクトに入ってきたのは予想していない。

 捲ったトレーナーを静かに元に戻せば、気まずそうにしながら彼女は身を捩った。

「…………えっち……」

 どっっっちがっ!?

 そうだった!
 この人、元々こういう人だったな!?
 冬だからすっかり油断してたが、そうだった!

 クッソッッッ!?

 彼女の装備は俺のトレーナーのみで、下着もなにもつけていなかった。

 彼女の大切な部分が直接、目に入ってしまう。
 昨日、あれだけ熱を吐き出したというのにまた昂りそうになった。
 どうにか気を逸らしたくて、おせち飾りのバランスを見直そうと再び菜箸を手にする。

「そんな格好してると襲われますよ?」
「いいよ?」

 は?

 彼女は俺の左腕にしがみつくように自身の腕を絡めた。
 胸の感触や擦り寄せられる太腿に、どうしても意識が向いてしまう。
 俯いて顔は見えないが、彼女の耳は真っ赤に染まっていた。

「って、……言ったら、どうする?」

 そんなの、おいしくいただくに決まっているが?

 期待しかさせてくれない彼女の態度に手に力が入った途端、バキンッ、と菜箸の先っちょが重箱の中で折れてしまった。

「あ」
「え」

 見失う前に折れた菜箸を片づけていると、血の気の引いた彼女が後退りし始める。

「ちょっと。どこ行くんですか。寝室はそっちじゃないでしょう」

 あんな誘い方をしておいて今さら風呂に逃げ込んだところで、押し入られるだけだというのに。
 彼女は往生際悪く抵抗した。

「乱暴にされるのはヤダなんだけど」
「そんなことしません」
「でも顔、怖い」

 高威力の爆弾を落とされれば、顔のひとつやふたつ、怖くもなるだろう。
 俺は深くため息をついたあと、菜箸をシンクに投げ捨てた。

「別に、俺はここでもいいんだけど?」

 テーブルの隅に彼女を追い込み、目に毒なほど無防備な内股に手を伸ばす。

「んぁっ!?」

 昨晩の余韻が残った彼女の皮膚は、爪で軽く撫でるだけで艶美に跳ねた。

「や、ダ……、メぇ」
「自分で誘ったクセに、なに照れてるの?」
「だ、だって、ここじゃ、や……っ」

 俺だけを見つめたまま、瑠璃色の瞳に薄い膜を張る。
 火照る頬をなぞれば、反射的に伏せられた睫毛が震えた。

「ふっ。わがまま」

 少し乾いた薄い桜色の唇を食む。
 体をこわばらせて浅くなった彼女の呼吸を整えさせるために、背中を撫でた。
 
「すぐに片づけるから、ちゃんとベッドで待っててね?」
「う……」

 指先が隠れた袖で顔を隠してうなずいた彼女は、とぼとぼとキッチンから出ていった。

 かわいい。
 あのかわいい子を、このあとどうしてくれようか。

 緩む口元を押さえながら、俺はテーブルを片づけた。

1/2/2026, 7:47:52 AM