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枯葉

枯れ葉は、肥料になるらしい



おじいちゃんは、いわゆる老害だ

古く臭い考えだし、口煩い

今時の若いもんは〜……なんて文句も平気で言う

今になっては逆に慣れたもんだが、小さい頃にも容赦なくタコができるほど聞き慣れた言葉だ

そんな態度だから近所の人からは毎回、話題が無くなった時のネタにされている

自業自得だ、とも思うが

誰に対しても態度の変わらない人間

裏表がない、という意味では終始一貫な人だなと思う


「礼儀がなっとらんな」

杖を上げて、俺を指しながらこちらを見るおじいちゃん

礼儀がなっていない、というのは‘’俺に会っておきながら挨拶のひとつもしないとはどいうことだ”、という意味らしい

「(通訳雇ってくんないかな)」

「あぁ……おはよう」

目線を上げて顔色を伺うが、鉄板のように硬い表情は変わらない

別に間違った事も言っとらん気もするが、顔に更にシワが入ったような気もする

「おはよう…ございます」

そう言うと満足したのか背を向けてリビングへ向かう

腰が悪いのにわざわざ俺のところまで来て、小さな嫌がらせをしてるくのだ

毎朝やられるからたまったもんじゃない

一見些細に見えるだろうが、機嫌が悪い時は思わず口が滑って

俺は執事じゃねぇぞ、この野郎。と言って喧嘩になったこともある

「……ふん…」

こんな事考えても時間の無駄だよな、早く行こう

頭の中に残る邪念を振り払って、玄関のドアを開けた


少し歩くと見慣れた風景が飛び込む

ランドセルを交互に預けながら登校する小学生、スマホを見ながら歩く若者、なにやら仲良さげに話す近所のおばさん

「ロウさん家の子だわ」

ロウさん、というのは俺のおじいみゃんのニックネームみたいなものだ

小学生の間で妖怪みたいな通り名で呼ばれているらしく

杖をついた老害じいさん、の略らしい

「ずいぶんと、まぁ。おおきくなったわね」

「あなたが歳を取っただけじゃない?」

「やだもぉ……気にしてるんだからね。やめてちょうだい」

「でも、挨拶もしないのね」

「まぁ、親代わりがあの人じゃあ……ねぇ?」

無視をしようかと一瞬思ったが、出かける前にじいちゃんに言われた言葉が頭に引っかかって思わず声をかけた

「おはようございます」

「あら、おはよう」

「ほんと、礼儀正しいねぇ。」

「私の息子にも見習ってほしいわ」

おばさんは口に手を当てながら、ヒラヒラと手を振る

その様子にある文章を思い出した

確か、最近読んだ本で口元を隠すのは感情を知られたくない心理の現れだった、とか見たような気がする

「それでね、最近新しい服を買ってみたの」

「どう?」

話が進んでいたのか、目の前のおばさんはヒラヒラと長いスカートを靡かせて右に視線を向ける

「うーん……イマイチね」

「色が合って無いんじゃない?まぁ、いいと思うけど」

赤、紫、黄のスワイプ柄のセーターと、茶色のロングスカート

バックには典型的な豹柄とか、目がチカチカするような彩り鮮やかなものまで

それ誰が着るの?っていう服を着ていたりする

40歳以降はセンスのない服しか着てはいけない、とかそういう規則でもあるのかな

「では、そろそろ……」

「引き止めちゃってごめんなさいねぇ、じゃあ」

「はい、さようなら」

少しお辞儀をした後に足を進めるとザクッ、と足に何かを踏んだ感触を感じた

道端に、大量の枯葉が落ちている

まるで______

「おじいちゃんみたい」

思わず枯葉を手に取る

葉っぱは茶色くカサカサで、土の匂いがした

元気そうな小学生も、あの若者も、近所のおばさんも、おじいちゃんも、みんな歳をとっていく

俺も、あんなふうになるのだろうか

栄養が無くなって成長を終えた葉と、シワシワのおじいちゃんの手の様子が重なった

2/20/2024, 8:21:58 AM