tomoLica

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マッチを擦る。
ショワっと火が着く音と、火薬の香り。
私の吐息で僅かに揺れる。
ランタンに火を灯ると、目の前に見覚えのある風景が映される。


ここは、隔離された無機質なホスピス。
致死率80%の驚異的なウイルスが蔓延したせいで、余命がいくらもない私は、この部屋で一人過ごしている。

唯一の娯楽は、このランタンだ。
火を灯すと自分の記憶が蘇る。

マッチ売りの少女みたい。
あの子も死ぬ前に、灯した明かりに幸せな記憶を見ていたんじゃなかったかしら。

私の記憶は、子供の頃のこと、初恋、友達、仕事に没頭した日々、夢が叶った時、私の子供たち…
四季の移ろい、生命のエネルギー…

自分は生きにくい性格をしていると思っていた。
生い立ちは酷くはないが良くもない。
苦難もたくさんあった。

しかし、このランタンに映し出される日々は全て愛おしい思い出ばかり。
はじめから、ずっと幸せだったのだ。
既に、充分だった。

幸せを噛み締めて、目を閉じる。
ランタンの灯りもそっと消えた。



お題
「記憶のランタン」

11/20/2025, 10:05:08 AM