小説マスター

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あの遠い夏の日。
貴方は私を置いていってしまった。白い無地の半袖Tシャツと一緒に。
貴方は海辺で私に言った。「俺ちょっと泳いでくるから待ってて。このTシャツ預かってて。」まだそう親しくもない私達の関係などお構いなしに貴方は脱いだTシャツを私にポイと軽く投げた。真夏の海辺の風は貴方が投げたTシャツを違う方向に空高くなびかせた。私があっと声を出しながら遠ざかるTシャツを追いかける。風がおさまりやっと私はひらひらと舞い落ちてくるTシャツを手に取った。もうホントに、貴方は人使いが荒いんだからって冗談交じりに思いながら貴方が走って行った海辺を見る。しかし、そこに貴方の姿は無かった。辺りを見回してもどこにも貴方はいなかった。あの日、あの時、なぜ貴方が私に何も言わずいきなり姿を消したのか。その理由は何か。どこへ消えてしまったのか。
それは永遠に解けない謎だ。
もうすぐで夏。Tシャツを着る時期。また私はあの夏の日の永遠の謎を思い出す。

5/29/2023, 9:07:22 AM