#108「愛を叫ぶ。」
「お金のかからぬ推し活などない」世間が決めつけるなら元素記号を擬人化してカップリングを決め、受験生顔負けの記憶力で記号を覚えることに満足する変人はどうだ。
「リスクのない恋愛などない」誰かがそう語るなら
今は亡き文豪に恋をして「私は文豪の嫁」と自称し
死人に口なし、夫婦円満を説く狂人はどうだ。
断言できることなど、この世にはない。
愛というものは、かくも多種多様だ。
私はといえば、何かに猛烈に狂う質でもないし
世間一般を騒がせるほどの愚人でもない。
だが――「推し活」と言えるものは、ある。
私は今、ベランダから生えている雑草に恋をしている。
名も知らぬ、小さく可憐に咲いた花。
見返りは求めない。供給だって少なくていい。
真夏の日差しから遮るために、私が日傘を差し続けて
皮膚を真っ赤に焼こうとも構わない。
毎日たっぷりと水をやると、艷やかに照ったその花弁が
わたしに優しく愛を語りかけてくるような気がしてくる。
私は愛を叫ぶ。大きな声で、世界に届くように。
嗚呼、こんなに素晴らしい幸せがあるのだと。
大きすぎるほどの愛に、お金もリスクもかからない。
そうだ絶対に、絶対にだ!
アハ、アハハ、アハハハハハ!
その後、私は近隣住民に訴えられて裁判になった。
被害は不気味な絶叫による睡眠障害。
法廷でいくらあの花の可憐さを証言しても、
裁判官には理解できなかったらしい。可哀想に。
慰謝料30万をおとなしく払った。
後悔?もちろんしていない。
5/11/2026, 11:27:24 AM