ごろごろ、と空が鳴いたので、僕は顔を上げて雷を探す。空は一面灰色で、僕が見上げるより前にその光は消えてしまったらしい。
足元ばかり見ていないでちゃんと空に意識を配っていれば、曇天を引き裂く光を見られたかもしれないな。僕、雷は割と好きなんだ。もったいない。
【遠雷、……鳴動、…………後悔】
光と音の伝達速度は違っていて、俯いている僕でも気づくくらいの轟音が響く頃にはとっくに光は通りすぎていて、だから、雷が好きだなんて口先だけで言って、ちょっと空が光った程度では気づかない僕が悪いのだ。
LINEを開く。君とのトーク画面。一番下は、通話記録。多分、これが雷の音にあたるものだった。
その上に積み重ねられた何十、何百もの会話のラリー。その所々に挟まる、「送信取り消し」の文字。僕が見逃した雷の光。
雷はとうに落ちていた。別々の大学に進んで、今は新幹線の距離にいる君のもとに。僕は気づけなかった。音が鳴るまで気づけなかった。
あるいは、雨が降っていたことにすら。天気予報を見れば簡単にわかるようなことを、距離を理由に知らず過ごした。
ごろごろごろ。
さっきよりも近い音。仕方がないじゃないか。足元を見て歩かないと、ぬかるんだ地面に足を取られてしまう。……僕がそんな下らない言い訳をしている間に、遠くの雷が取り返しのつかないくらい僕に近づいて、この身を焼き尽くしてしまえばいい。
8/23/2025, 12:53:25 PM