テーマ『心のざわめき』
陣所に戻り、椅子に腰掛けて一つ息をついた。
策の準備は着々と進んでいる。毎度の事ながら、人の意表を突くというのは難しい。だが、殿に軍師として抜擢されたからには期待に応えてみせねば。それに、若輩者である自分を快く思わない古参の将軍たちにも、この戦で少しでも認めてもらう必要がある。
今回の策はかなり大掛かりなものとなった。敵軍に悟らせる訳にはいかないので偽情報を流したり、向こうの内情を探らせたりしているが、どうにも心がざわつく。何が見落としがあるのでは、と策を見直したり、あちこち見て回ったがどこにも問題はなかった。心配しすぎか、と休憩のために陣所に戻ったところだった。
では、このざわめきはなんだ。軍師としての勘だとするには、あまりにも曖昧としている。まさか今になって臆病風に吹かれたわけでもあるまい。
「軍師殿! こちらに居られましたか!」
バサリと音を立てて兵士が一人入ってきた。まさか何かあったのかと椅子から立ち上がる。
「父君からの書状になります」
予想外の言葉に一瞬呆気に取られるが、すぐに差し出された書状を受け取った。兵士は一礼をすると陣所から出ていった。
――書状にはこうあった。「母が危篤。今すぐ戻れ」と。
3/16/2025, 7:19:03 AM