天津

Open App

どうして

どうしてそんなに耳が大きいの。
─どこへ隠れてもお前を探し出すためさ。

どうしてそんなに目が大きいの。
─どこまで遠くへ行ってもお前を見逃さないためさ。

どうしてそんなに口が大きいの。
─お前を…食べるためさ。

じゃあどうして私を食べないの。

少女はまるいまなざしで、獣の暗い眼を覗き込んだ。
獣は一瞬息を止めた。それから、黙ったまま少女の背後に回り、毛皮の身体で包み込んだ。少女の腕が、獣の頭に伸びる。切り傷だらけのその腕を見ながら、獣はまだほんの幼かった頃、その腕に命を救われたことを思い出した。

獣は、数多の人や獣をその地で殺してきた。いつしか獣の棲む森には、自殺志願者でもない限り誰も近づかなくなっていた。

獣は少女を住処から追い出したかった。少女を殺す気はなかった。しかし、少女は何も食わず、何も飲まず、ただじっとその時を待っているようだった。
どうして、と問いかけるほど、獣は少女をよく知らない。たった一度助けられた記憶が少女の全てだ。だから獣は、こうして夜の寒さから少女を守ることしかできなかった。
どうして、と少女は呟いた。獣は目を瞑る。何へともなくこぼれた言葉は、静かに森の闇へ消えていった。

2023/01/15

1/15/2023, 7:24:26 AM