友達と、小さな約束を毎日している。
そうはいっても私が一人でそう思っているだけで、彼女は約束だとは思っていないだろう。私が一人で、また明日、そう願っているだけ。
小学生の頃、友達と別れる際にはバイバイ、と挨拶だけしていた。
ある時金曜日にバイバイと言って別れた友達が、週末家族でドライブしていて事故にあった。その子は骨折で済んだのだけど、母親が帰らぬ人となってしまった。
お見舞いに行こうとしたけれど、母を失い悲しみに暮れる彼女は誰にも会いたくない、そう拒絶したと担任から聞かされた。
退院後、働く父親が小さな女の子を独りで育てるのは難しかったのだろう。祖父母と同居することを決め、そのまま一度も再会すること叶わず、彼女は転校していった。
そんなことがあってから、友達にはまたねと再会を願う小さな約束を一人でするようになった。別に強制力はない。中学の卒業式で「また絶対遊ぼうね」と言い合ったその子とは、高校二年になった今でもまだ一度も遊んでいない。
けれど、今日私は友達に約束しなかった。
帰りに寄り道をして、楽しく遊んでいたはずなのに気づけばちょっとしたすれ違いで喧嘩になった。本当に小さな、周りから見ればくだらないと思うようなこと。それでも今の私にとっては、これで友達と縁が切れても仕方ないと思うほどのことだった。
だから踵を返して、彼女を一人放って帰ろうとした。そうしたら大きな、怒りの滲んだ声で呼ばれた。
「ねぇ! また明日って言ってくれないの!」
驚いた。驚きすぎて、きっと変な顔で彼女を見つめてしまっただろう。約束のことは誰にも話したことがなかった。私がただ一人で願っているだけだから。
「……あんたが、自分が悪いって認めるなら、言ってあげてもいいけど!」
「はぁ!? あたし悪くないし!」
もうおかしくって、さっきまで天地がひっくり返るほどに怒り狂っていたのが馬鹿みたいで。笑いながら言ってやったら彼女はまだ拗ねているものだから、余計におかしかった。
「あんたが帰るならここで言ってあげるけど」
「……帰んないの?」
笑いが止まらない私の様子に、もう怒っていないのだと察した友達は、気安く私の腕に手を回してきた。現金なものである。彼女も、私も。
「ねぇ、なんで『また明日』なんて言って欲しいの」
「だって、約束してくれてるみたいじゃん」
嬉しそうな彼女は人懐こい笑みを浮かべる。素直になれない私はどうせ明日学校で会えるのに、と揶揄うように言ってのけた。言葉とは裏腹に、伝わって嬉しいと滲み出ていたのだろう。彼女は笑みを深めた。
「いーじゃん。あたしが一人でそう思ってるだけ」
腕にぎゅうとまとわりついて、もたれ掛かってくる彼女を尻目に、私も同じ笑みを湛えた。
3/5/2025, 9:01:34 AM