雪だるま

Open App

 小雨が降る中、安産祈願に訪れた相合傘の二人。そのうちの一人、懐妊した妻に甲斐甲斐しく傘を差し向ける男の声に、わたしは聞き覚えがあった。
──かつて、妊娠したわたしの腹を無慈悲に蹴りつけ、流産させた男。
 そんな男が、別の女と幸せになろうとしている。わたしの子供たちは、あの男のために生まれることさえ許されなかったというのに、あの女の子供は同じ男に生まれることを望まれている。

許せない……許さない。

──────

「あっ、」
「ん?どうした?」
「今、黒猫が横切ったの。」
何か不吉~、と私はごく軽い気持ちで言ったが、夫はなぜか、何か後ろめたい事でもあるかのように、奇妙に顔を歪ませて言った。
「…そんなの、ただの迷信だよ。」

(相合傘)

6/20/2023, 12:39:50 AM