あなたがすき

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「みっともない」
と囁く唇から漏れる息が、啜り泣く寸前のものに似ていた。
辛くなってしまうのならそんなこと言わなければ良いのにと思ったけれど、私には到底計り知れない心の底を少しでも理解したくて、ただ両腕をその背に回した。彼女は鼻先を私の髪に埋めてしばらくそうやって呼吸を繰り返した。顔が見えないまま耳元で聞いたその音は、生まれてから取り込んだ音のうち最も切ない色をしていた。

明けない夜を探していた。
形のない悲しみばかり積み上げて試していた。
暗がりで触れ合う指先の温度が足を動かす。
あなたの風に荒らされる髪にイノセンスを見ていた。
それだけだった。
私の心の中であなたが見えなくなっても、時々瞳の中に姿を見てしまう。似た温度や肌、匂いなんかを探してしまう。「大丈夫」と繰り返しても地平線はどうやってもその腕の中だった。
あなたも誰かの瞳に私たちを見たら変わるのかもしれないけれど、きっと物語の一部にはしてくれない。
私が生きてない時間。
切なさを形にした呼吸がずっと離してくれないから凍えてどこにも行けなくなってしまった。
雪原の先なんてない、どこにも行けない、けれどその先へ進むあなたがどうしようもなくみっともなくて、私もみっともなくあなたばかりずっと。
ずっとそうだ。
美しいと謳った唇でみっともないなんて呪いを吐くから。
あなたの、白い腕の中だけが私の全てだった。

Ses bras blancs devinrent tout mon horizon.


雪原の先へ

12/8/2025, 10:12:39 AM