──冬のようなひと。
隣を歩く同居人の吐く息が白い。優しく息を吐き出して見ると、同じように白くなった。
どうやら、いつの間にか冬がやってきたらしい。
この馴染みの散歩道が雪景色に変わる日も近そうだ。石畳に雪が積もると、翌日凍って滑りやすくなるから、散歩には困るけど。
ああでも、同居人には雪がよく似合う。隣をちらりと見て、灰色のマフラーに口もとをうずめている姿が雪の舞う中を歩く姿を想像する。……やっぱり寒がりだから出歩かないかもな。
「すっかり冬だなあ」
並木も早々に葉を落として次の春へと力を蓄えている。時折落ちている枯れ葉が、踏むたびに乾いた音を立てた。
「……少し前まで夏のような気温だったというのに」
「ははっ、寒かったり暑かったり忙しないもんな」
「体調を崩しやすくなるから嫌なものだ」
朝夕の気温差が十五度を超える日も多い。季節の変わり目に風邪をひきやすい人からすれば、恨めしい季節に違いない。
「……冬は嫌いではないが」
「ん?」
「氷魔法は有利になる」
なるはど、魔法の話か。確かに冬に氷魔法使いと戦うのはごめんだ。
「俺も冬は好きだな」
「寒がりではなかったか」
「ん、なんかお前っぽい」
「季節と人間を並べるのはどうなんだ」
「えー、灰色とか水色だし、似てねえ? あと、冷たいけど綺麗で優しいとこかな」
「……そうか」
小さな声だった。
冬の曇天の色をしたマフラーに隠れた頬が色づいていることを、たぶん俺だけが知っている。
(冬のはじまり)
11/29/2024, 12:59:08 PM