NoName

Open App

風に身をまかせ

到底辿り着くことができない森の奥深くに眠っている不思議な物があると聞いて、易々と足を運ぶ。
どこを見渡しても木、木、木……。

いやはや、迷子ですか?
「ええ、そうです。元の道もわからないままで」
それは大変だ。あなたは、どちらからいらっしゃったんですか?
「ここから近く、ではないでしょうが、川沿いにある村落です」
ご安心を、私はここをよく知っています。あなたの言う村落までご案内できますよ
「本当ですか?いやあ、助かります。どうも、ありがとう」

男は、失礼、と言い軽く会釈をすると、着ていたコートを広げて、手招きをした。

ささ、こちらですよ。どうぞ、お入りになって
「いいえ、大丈夫です。」
まさか、その状態で帰るつもりで?手が震えていますよ
ああ、大丈夫、何もしません

少し考えた後、男の懐へ入る。すると、内側にある中綿に包まれた。

すみませんが、動物臭い
申し訳ない、先ほど、狐に襲われてしまって
そうですか、あの、真っ暗で、何も見えませんけれど
……暖かい、でしょう?
ええ、まあ
では、行きましょうか。

小枝を踏んで、歩き出した。ガサ、という足音は、暖かい通り風と共に消えていった。

5/14/2024, 7:31:39 PM