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 僕のお嫁さんは超能力者だ。
 と言ってもサイコキネシスとかテレパシーとか、そういった有名なものは使えない。
 マイナーというか、多分世界に一人だけの超能力だ。

 嫁の超能力、それは『世界に一つだけ』の複製を作ること。
 凄い、と思われるかもしれないが、意外と使い勝手は悪い。
 
 その名の通り、そもそも存在しないものは作れない。
 二個あったりするとこれも複製不可。

 複製できるのは、失敗含めて一日一回。
『世界に一つだけと思ったら、なんか二つあったらしく失敗』なんてこともあり得る(と言うかあった)。 
 だから手あたり次第は出来ず、案外使いどころが難しい

 それにだ。
 考えてもみてほしい。
 世界に一つだけのものが分かったとして、欲しいだろうか?

 仮にテレビで『世界に一つだけ特集』をしていたとしよう。
 そこで紹介されたもの、本当に欲しいだろうか?
 凄いとは思っても、欲しいとまでは思わないのでは?

 『世界に一つだけ』でも欲しくない。
 あるいは欲しくても『世界に一つだけ』じゃない。
 現実は厳しい。

 ちなみに、お札は複製できる。
 『あれこそ数えきれ程あるだろ?』と思うだろうが、そこは発想の転換。
 お札には固有の番号が振ってあるので、番号さえ指定すれば複製できる。
 試しにやったら出来たので間違いない。
 妻と二人で大喜びである。

 だけど、寝て起きたら急に怖くなった。
 だってこれ、通貨偽造だよね。
 通貨偽造は重罪。
 真っ当な人生を生きてきた僕たちは、やったことに怖気づいてしまった。
 なので、こっそり燃やして捨てた。
 それ以来、お札は複製してない。

 まあこんな感じでうまくいかなかった。
 ということで最近は、一日ごとに『世界に一つだけの物』を当てる遊びみたいに使っている。

 結局俺たちは、このくらいのほうがちょうどいいのだ。
 

 そんなある日の事。
 その日は僕の番だったのだけど、どうしても思いつかなかった。
 99回連続で外した身としては、どうしても正解したい。
 妻から笑われないためにも、ここは負けられない。

 僕は一日中悩んだ末、天啓を得た。
 『僕を複製できるか』
 僕はこの世界で一人だけ。
 間違いなく当たりだ。

 とはいえ、本気で言ったわけじゃない。
 はっきり言って冗談だ。
 思いつかなかったので、やけくそで言っただけ。
 本当に複製を作られても困る。
 妻もきっと、僕の冗談に笑うか、あるいは『趣味が悪い』と怒るだろう。
 そう思っていた。

 だけど、妻は予想外の反応をした。
 僕から気まずそうに目をそらす。
 何その反応?

 待って、『ゴメン』ってなに?
 土下座しないで。
 ちゃんと説明を、いや説明しないでくれ、知りたくない。

 もう一人僕がいるなんて、そんなのありえない
 だって僕は、世界に一人だけの――

9/10/2024, 1:28:26 PM