『あなたがいたから』
「やっと着いた……
ここが最深部かな?」
私の名前は、リリィ。
冒険者をやっている。
誰も攻略したことが無いと言われるダンジョンの噂を聞き、ここまでやってきた。
ダンジョンに眠る金銀財宝を独り占めしようと、このダンジョンにやって来た。
「ハイ、ココガ最深部デス」
そして私の周りをグルグルまわる、珍妙な生き物はナヴィ。
このダンジョンの入口にいて、それからずっと私に付きまとっている。
自称『このダンジョンのナビゲーター』。
正直に言うと、私は信じていない。
ナビゲーターなんて他のダンジョンで見たことないからだ。
けれど、ここまで力を貸してくれたのは事実。
それでもって話してみるととても面白い。
悪い奴ではなさそうなので、とりあえず信用することにしたのだ。
そして『ナビゲーター』を自称するだけあって、このダンジョンには詳しく、ダンジョンに仕掛けられたトラップや仕掛けを事前に察知することが出来た。
そしてナヴィの力を借り、今私はダンジョンの最下層まで来ることが出来た。
感謝してしきれない恩がある
「感謝するよ、ナヴィ。
あなたがいたから、このままで来れた」
「お安い御用デス」
「コレが終わったら、もっと話しようね」
「タノシミデス」
ナヴィは嬉しそうに私の周りを回る。
彼?の事はよく分からないが、感情というものはあるらしい。
まるで子供の様にはしゃぐ様を見て、私も嬉しくなる。
だけど、感傷に浸るのは後。
目の前の事を終わらせてからだ。
「ジャア、りりぃ、ソノ扉ノアケテクダサイ。
コレガ最後デス」
「分かった」
ナヴィい言われた通り、ゆっくりと部屋の扉を開く。
そこにいたのは……
「クククッ。
封印を解いて下さり、ありがとうございます。
強力な封印でこちらからは開けることが出来なかったのですよ……」
部屋の中には男がいた。
しかし、その男は禍々しい魔力を放ち、ただの人間ではないことを示していた。
「私は人間が魔王と呼ぶ存在。
あなたのおかげで、私はここから出ることが出来る……」
私は男の言葉に耳を疑う。
魔王だって!?
「魔王が、なんでこんなところに!?」
「昔、世界を支配しようとして、失敗してしましてね。
ここに封印されていました」
私は背中に冷たいものを感じた。
お金持ちになろうとして、逆に魔王の封印を解いてしまうとは……
絶対怒られる奴だよ。
「ちょっとナヴィ、こんなのいるって聞いてないよ――
ナヴィ?」
『なぜ魔王がいることを黙っていたのか』
そう問い詰めようと振り返るも、ナヴィの姿がどこにもない。
どこに行った?
「魔王!
ナヴィをどうした!?」
「分かりませんか?
あなたがナヴィと呼ぶ存在は、私の使い魔……
私とあなたはナヴィを通じて話していたのですよ、リリィ」
「そんな……」
私はまんまと魔王の口車に乗り、封印を解いてしまったわけだ。
何が『悪い奴ではなさそう』だ。
くそ、自分が不甲斐ない。
「封印を破ってどうするつもりだ!」
「まずは世界を支配します。
あなたがその気なら一緒に支配しませんか?
不意員を解いた礼というやつです。
相応の地位を約束しましょう」
「ふざけるな」
私は腰に携えた剣を引き抜く。
伝説の剣ではないが、これで戦うしかない。
どこまで行けるか分からないが、出来る限りの事をしよう。
「私は世界征服なんて興味は無い。
刺し違えてでも、魔王を倒す」
「これは困りましたね。
私はあなたの事を気に入っているのです。
我が傘下に入っていただけませんか?」
「くどい」
「ふーむ」
魔王は本当に困ったように腕を組む。
見る限り、本当に困っているように見える。
なんか調子が狂うな。
「分かりました。
世界を征服するのはやめにしましょう」
「は?」
またしても耳を疑う。
コイツの言っていることが理解できない。
「からかっているのか?}
「いえ、本心です。
実を言うと、最初はあなたの事を道具としか思っていませんでした。
しかし、このダンジョンの中だけとはいえ、とても楽しかった。
そして気づいたのです。
貴方がいたから楽しかったのだと……
ですので、あなたが隣にいない世界征服など興味はありません」
「えっと、つまり?」
「私があなたの傘下に入ります。
何なりとご命令を……
私の事は……
そうですね、以前の様にゲータとお呼びください」
魔王――ゲータの言葉に衝撃を受け、私は剣を落としてしまう。
「待って待って。
魔王が復活したとなったら、他の人たちが黙ってないよ。
また封印されるだけだよ」
「確かに……
私があなたに従うと言っても、誰も信じないでしょうね」
「そういう事ではなく……」
ゲータはまたも腕を組んで悩み始めた。
しばらく悩み、ぱあっと顔が明るくなる
「ではこうしましょう。
私があなたに婿入りします」
「どういうこと!?」
「魔王が人間の家庭に入ったとなれば、すくなくとも表面上は敵対の意思が無いと分かるはずです」
「そうかなあ?」
「そして世界に知らしめるのです。
私たちは結婚すると!」
「話聞いてねえし」
お、おかしい。
ダンジョンに潜ってたらいつのまにか結婚することになってしまった。
なんでこうなった……
「結婚は大げさすぎる。
私は世界が平和ならそれでいいんだ」
「なら別にいではないですか……
披露宴に呼んだ各国の王や重臣たちは、こう言ってくれるはずです。
「魔王が復活を許したが、貴方がいたから今日も世界は平和のままだ』とね」
6/21/2024, 1:57:21 PM