薄墨

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傘をさすのが下手だ。
小さい頃からずっと。

傘をさして歩いていると、その日がどんなに小雨でも、履いているズボンの太ももがびしょ濡れになる。
はみ出るはずがないのに、いつの間にか傘からはみ出ていた、傘を持っていない方の肩から腕に、雨粒の水玉模様ができる。

今も、傘をさすのが下手だ。

ボタン、ボタタン…底の浅いタライに、雨粒が衝突する音が聞こえる。
トトン、トトトン…缶詰の空き缶に、雨粒が落ちる音。
ポチョチョン、チョン…もうすでに雨水が溜まり始めた小さな容器は、水っぽい音を立てている。

子は親に似る、ペットは飼い主に似るというが、家というものも、持ち主に似るらしい。
この家は私に似て、傘をさすのが上手くなかった。
雨を塞ぐのは苦手なのか、雨の日はいつも雨漏りする。

だから、梅雨の時期には、缶詰が欠かせなくなった。 
中身は、濡れてしまった私の体を温めるためにスープになり、外の缶は雨漏りを受ける受け皿になる。

ざああ…
ポトトン、トトン、ボタタン、ピチャン…
雨音に包まれて、今日も私は鍋をかき混ぜる。

幼い頃、雨のたびにびしょ濡れな私に、母はため息をつきながらも、温かいスープや鍋で作るココアを作ってくれた。

ざああ…
ボタタン、ポトン、ピチチャ、トトトン…
雨音に包まれて、今日も私は鍋をかき混ぜる。

6/11/2025, 10:14:07 PM