『海の底』
眼の前に青い光を見ながら、暗闇へと落ちて行く。
唯一わかるのは光が見えるほうが上だと言うだけで、体にまとわりつく水が自分の体の全てを奪ってもう指一本動かせない。
嵐の中、家臣たちにも止められていたにも関わらず航海に出たのは遠くの国で王と王妃が行方不明になったと聞いたから。
どんなに厳しく育てられたって自分の父と母。
いてもたってもいられなくて航海に出た先。船は難破し皆海へと落とされた。
このまま海の底へと沈むのだろう。
父様と母様を探せないまま、馬鹿な息子は海の中に沈んでいくんだ。
もう目も開くのが意味もない暗闇に差し掛かろうとした時。
とても綺麗な青を見た。
微かな光にキラキラと輝いてまるで泳いでるようなその青は、沈んでいく自分の周りを心配そうに回ってそして自分を包みこんだ。
このまま海の底へと連れていく化身なのだろうか。
ならばこんなに綺麗ならそれでもいいかもしれない。
無音の海の中そんな風に思えば自然と力が抜けて、意識も遠くへと向かう。
父様、母様。
馬鹿な息子でごめんなさい。
そう思って次に目を開いたのは、あの日家臣に止められた港側の浜辺。
水浸しの自分を
眩しい光の向こう心配そうに覗く少女の顔が見えた。
1/20/2024, 10:30:44 AM