君がいなくなってからどれほどたっただろう。
白い病室。口元を粘度の高いボルドーで汚しながら、苦しそうに釣り上げられる君の口角。
ねぇ、病褥の君。僕はね、花が枯れていく様子を見るのは辛いんだ。
白く滑らかな皮膚から弾力が消えていくのも、桃色に色づいた頬が青ざめていくのも、柔らかさを持った体躯が鶏ガラのように惨めになっていくのも。
ねぇ、ミア。病褥の君。静寂の君。
もう息を吹き返さない君。
大丈夫だよ。君はただ、眠っているだけだから。
誰の目にも触れない、冷たい地下の一室。
僕は水や、炭素や、他にも沢山の物を混ぜて、捏ねて、固めて。
僕は君の肉体(ハード)を造った。
大丈夫、君の脳(ソフト)はここにある。
あとはパズルのようにパーツを組み合わせれば、僕はもう一度、君に会える。
「だからさ。もう少し待っていて、ミア」
男は水音の響く培養槽に額を合わせた。
ミアによく似た人形に、愛を囁きながら。
2/13/2024, 10:43:37 AM