いぐあな

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300字小説

流浪の王

 その王は今の世では『流浪王』と呼ばれている。王家の第八王子として産まれ、傍流の公爵家の嫡男として養育されていたが、貴族同士の権力争いのなか、上の兄達が次々と失脚し、とある有力者に担ぎ上げられ、王となった。
 しかし、数年で退位させられ、その後は親戚筋を転々としたという。そんな彼の不条理な人生を『流されるだけの人生を送った』と下げずむ歴史家も多い。

「私はそうは思わないんですけどね」
 『流浪王』の詩集を手に歴史家の彼と王が滞在した村を見下ろす。
 春霞に煙る青い山々。白い花を零れんばかりにつけた果樹の園。詩集に書かれた美しい光景が広がっている。
「本当に」
 愛らしい鳴き声をあげて小鳥が空を駆け上がっていった。

お題「不条理」

3/18/2024, 12:17:24 PM