『聞いて聞いて!この森の先にね……』
歩く度に花が咲き、声が響く。
森の入り口付近の花は、森の噂と前を通る人の声を響かせた。
『そうなの!私見たんだよ!けどね……』
花は少しずつ、聞いた言葉を響かせた。
上手く聞き取れなかったのかところどころ内容は飛んでおり、どういった話なのかは判らない。
『聞いて聞いて!あのね……』
『さあ、もうお帰りなんし。お母様が……』
幼い声とは別の声が響いた。
『やあ!いらっしゃい!今日は……』
また別の声が響く。
2つの新しい声は、幼い声の主を出迎えたり、送り出したり、この森に住んでいる人なのかもしれない。進めば判る。
『飛天。来たよ、どうし……』
『そうでありんすねえ。帰っていただく……』
幼い声は響かなくなり、2つの声だけが響き始める。
『いらっしゃい!』
『いらっしゃい!』
『いらっしゃい!』
声が響く。
『お待ちしておりんした。さあ、こちらへ。』
花はそう、はっきりと響かせた。
『こっち』
『こちらへ』
『右へレッツゴー!』
『そのまま真っ直ぐでありんす』
はっきりと、はっきりと響く声につられて進む。
『後ろっ!』
声が響くと同時に後ろを見た。
そこには一人の青年が立っていた。
「早く帰らないと、もうすぐ日が沈んでしまいますよ」
青年はそう言うと、後ろ、と声を響かせた花の方へと歩き出した。
早く帰ろうと来た道を進み始めたとき、後ろからまた、声が響いた。
『もう沈みきったみたいだ』
7/23/2023, 2:12:04 PM