織川ゑトウ

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『終始、恋愛物語(しゅうし、れんあいものがたり)』

夏、千変万化の影送り。
只今の時刻は午後六時十分。

七月も下旬に差し掛かり、僕の町「夏ノ斗町」では夏祭りが開催される時期になった。
僕、近衛凛太(このえりんた)も、その夏祭りに行く最中だ。
夏祭りと言えばよくみるあれ、
告白しようと思ったらちょうど花火がばーんってなるやつ
本当に見たことある人いるのかなぁ。

そんな凡な考えを空中に浮かばせ、夕暮れの川沿いにてゆっくりと歩いている。
そう、ゆっくり、ゆっくり歩いているのだ。

…うん。正直言っちゃえば行きたくない。
実は、今から僕が行こうとしている夏祭りに誘ってきたのって学校でも有名な
「撫楽子(ならしこ)さん」なんだよなぁ。
何がいけないかって、、、その、ね、ふくよかなお方…なんだよね。
うん…ごめんなさい。なんか、うん…

残念ながらスレンダー体型が好みな僕は、
今からのことを考え少し途方に暮れそうだった。
まだ、夏祭りに誘われたところまでならギリギリOKなんだけども
あろうことか撫楽子さんの口からでたのは

「告白するから覚悟しといてね」

っていう…覚悟もなにもってなっている状態なのです。
人を見た目で判断しちゃいけないっていうのは正論だけれど、
残念ながら正論とはちょっぴりズレた位置にいる僕。
しかしまぁ、そういう奴らが大抵なこの世では…
「可哀想」やら「終わったな」って同情の目が夏祭りに誘われた僕に向けらた。

うぅん…どうしよう、、
一応浴衣で行っているけれど、もしかしてこの浴衣はあれか?
「あーれー」ってくるくるさせられるやつか。
撫楽子さんってそういうのが趣味なのか…?

くだらない空想も「おーい」という撫楽子さんの声にかき消された。

「なっななっな、な、撫楽子サン…」
「ごめんね。遅いから少し心配になって迎えに」
「あっ、もしかして六時合流だったのか…?」
「うん」

僕は浴衣とは不釣り合いな腕時計で時刻を確認し、無事六時を過ぎていたことに
あちゃーという顔をする。

「でも、花火が始まる時間はまだまだ先だから落ち着いて会場に行こうね」
「そっ、ソウダネ……」

色々な意味で緊張しすぎている。
一つは告白ってどんなことをされるのかが心配なこと。
もう一つは

「撫楽子サン、その、、浴衣キツくない?大丈夫?」
「うん?大丈夫だよ。お母さんに調節してもらったから」

撫楽子さんの浴衣が少しキツそうで心配なこと。
浴衣に変えたら可愛くってこともなく、いつも通りの撫楽子さん。
ものすごく失礼なことを言っているけれど、不細工なわけではない。
あくまでも平均顔だ。

「あ、ついたよ」
「ひゃ、つ、ついた……」

特に何か喋るでもなく、平和的に会場までついた僕たち。
会場には、恒例であろう屋台が沢山並んでいた。
りんご飴、わたがし、ベビーカステラ、いちごあめ
子供が好きであろうあっまいお菓子が大量にキラキラと輝いていた。

「んー…あ!近衛くん!あれ食べたい!」
「おっ、おぉう!いいよ!何々?…って牛串?」
「うん!物凄く美味しそうだよ!」

撫楽子さんが楽しそうに指差していたのは
「牛串ッ!」と看板に書かれている牛串屋さん。
りんご飴でもなく、わたがしでもなく、なんならとうもろこしでもなく…
牛串ッ!…まぁ、撫楽子さんらしいしいいかな…

「まだ空いてるし今のうちにならんどこうか?撫楽子さん?」
「うん」
「注文…何本にしようか?」
「んー…じゃあ五本で!」
「五本ッ!」

うん。予想はしてたけどね。本当にこられるとね…ハハ。

「だ、大丈夫?お腹壊したりしない?」
「大丈夫だよ。お気遣いありがとう」

そう言ってヘラっと笑う撫楽子さんはまるで無邪気な子供のようだった。

牛串以外にも色々と買い物を済ませ、近くの花火が見えるであろうベンチに座った。
りんご飴、水飴、いちご飴、とうもろこし、牛串、かき氷…いや飴多いな!
心の中でツッコミをいれつつも、それをぺろり食べる撫楽子さんに圧倒される。
もくもくと食べる撫楽子さん。少し気まずい。

「…ねぇ、近衛くん」
「っひゃ!ッハイィ!」

急に名前を呼ばれ肩をはねさせる僕を気にも止めずに撫楽子さんは話を続ける。

「私ね、この体型実は病気だからなの」
「え」

そんなことを伝えられるだなんて思いもしなかった僕は、驚きのあまり目を見張る。

「病気だからね、治すにも治せなくてね…」
「…」
「学校でも沢山いじめられたし、陰口も…物凄く辛かった。でもね、」

「近衛くんが言ってくれたんだ。''笑顔が素敵じゃん''って」

…あっれぇ僕そんなこと言ったかな…?もしかしてそれで僕を好きに?
うっわぁ。我ながら罪な男じゃん…最低。

「ねぇ、近衛くん」
「好きだよ。私、すっごい君が好き」

運よく花火が上がり、言葉がかき消されるなんてことはなく
すんなりと伝えられた、少し重みのある言葉。

「でもきっと、近衛くんはこの体型だと振り向いてくれないよね」
「…私、こうやって近衛くんに好きを伝えられて、少しでも隣にいれて嬉しい」
「これから関わることはないだろうし、もうバラバラで帰っt」

「待って!!!」

自分でも驚いた。こんな声量が出ることに。いや、それ以前に

「僕、撫楽子さんが好きだ」
「えっ」
「僕は、撫楽子さんが好きだ」
「えっと、それってどういう…」

僕は、思い出したんだ。
昔、いじめられていた頃にいじめっ子達に歯向かうたった一人の存在を。
綺麗な名前で、まるで撫子のような。

「…こういうことだよ。撫楽子さん」

ちゅっ

瞬間、花火が上がりまるでキスしたことを内緒にするように大きく、大きく咲いた。

僕の人生という名のお祭りにも、同時に特大サイズの花火が咲き誇った。


お題『お祭り』

あとがき
書くの楽しくてついつい長編ストーリーになってしまいました。
撫楽子さん、近衛くん、どちらも可愛らしいですね。最近暗い感じのが多かったのでいきなり恋愛ぶちこんでみました。味の違いでお腹が胃もたれしちゃいますね。
いいですねぇ、好きな人と夏祭り。皆様は好きな人とお祭りいったことありますか?
私はお祭りは大好きですけれど、好きな人とは、それ以前に好きな人が出来たことがありませんね。お祭り、青春、大好きです。夏は暑い分のエモさがいいですね。
ちなみに撫楽子さんは本当に平均顔ですよ。近衛くんはちょいモテ程度のイケメンです。
これからの二人が楽しみですね。どっちも奥手そうで、応援したくなるようなカップルになりそうっていうか近衛くんが過保護になってバカップルになりそう。

7/28/2023, 2:54:20 PM