💎 クリスタル – プロローグ
眠れない夜の冷たい風が、街の隅々まで吹き抜けていた。
会社帰りの男・秋津 蓮(あきつ れん)は、いつものようにイヤホンをつけて帰路を歩いていた。
ふと、背後で何かが走る音がした刹那——
鋭い痛みと共に、視界が白く弾けた。
——死んだ、と思った。
しかし次の瞬間、まぶしすぎる光と柔らかな風に包まれていた。
そこは、見渡す限りの草原だった。
地平線はどこまでも淡く揺れ、空は夢のような色をしている。
「ここは……」
そして、草の中にぽつんと佇む少女がいた。
白いワンピースが風に揺れ、淡く光るような髪が風に踊る。
彼女がこちらを振り返ったとき、蓮の心臓が一瞬止まる。
その瞳——
光を受けて七色に輝く結晶のように美しかった。
それは人の目ではない。
けれど、どこまでも優しく、寂しそうで、すべてを知っているようだった。
「おかえりなさい、蓮さん」
彼女はそう言った。——蓮が、その名を告げていないのに。
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7/2/2025, 12:44:06 PM