※BL要素がありますので、苦手な方はご注意ください。
「所長って流れ星に三回願い事唱えたら、ってやつ信じてなさそうですよね」
まとまった休みを、僕の家で一緒に過ごしているときだった。
前日まで友人と一泊二日の小旅行に出かけていた昇(のぼる)くんの土産話を聞いている途中、突然なにかを思い出したかと思えば、そんなことを言われた。
「突然だね。まあ、その通りだけども」
「やっぱり」
隣に座る昇くんは小さく笑った。年齢より幼く見えるその顔に、いつも密かに「萌え」ていたりする。
子どもの頃、助けてもらった祖父が憧れの人だったと目を輝かせながら、孫の僕が引き継いだ探偵事務所の門をくぐってやってきてから一年ほどが経った。
彼はすっかり馴染んだし、先輩の梓くんにもいい感じに可愛がられている。
なにより、僕の大事な大事な恋人にもなった。
「泊まったホテルの屋上で星空鑑賞会やってて、参加してみたら流れ星が見れたんですよ! でも一瞬過ぎて願い事なんて言うヒマないですねアレ」
「当たり前だよ。ていうか来るのがわかってたとしても、単なる迷信だから無駄無駄」
ちょっと言い過ぎたかな? でも理屈が通らない事柄ってどうにも気持ち悪くて納得できないんだよね。昇くんはこんな僕の性格は充分わかってくれているとは思うけれど。
「まあ、願い事がないわけじゃないよ」
「えっ、なんですか?」
瞳を輝かせた昇くんが覗き込んでくる。そんなに期待されるとちょっと恥ずかしい。
「絶対叶うなら、愛愛愛! って叫ぶかな」
「あい……?」
眉根を寄せている昇くんの頬に触れて、続ける。
「昇くんともっとラブラブになりたい、ってこと」
単なる悲鳴か反論だったのかはわからない。
唇を食むように何度か角度を変えたキスをし終わると、怒ればいいのか恥ずかしがればいいのかわからない昇くんの表情があった。
「所長っていきなり論理的じゃなくなりますよね」
「え、そう?」
「そうですよ! いきなりら、ラブラブとか言い出して!」
結構本気で願っているんだけどな。今でも充分幸せだけど、たとえば「僕なしじゃ生きられないです!」とか言われてみたい、なんて。本当にそうなったら、昇くんらしさが消えてしまうから本気で願っているわけでもないけど、一日くらいなら……。
「だ、大体今も結構そうじゃないですか。おれ、ほんとに所長のことす、好きですもん」
視線は逸らしつつ、こちらの服の裾を遠慮がちに掴んで、なんとも可愛らしいことを言ってくれる。なのに僕ったら、ちょっとだけ意地悪したくなってしまった。
「本当に?」
「だったらキスとかしません」
「じゃあそのキス、たまには昇くんからしてほしいな」
反射的に僕を見た昇くんの瞳がいっぱいに開かれている。昇くんは照れ屋さんだし、僕からするのは全然嫌いじゃないけど、たまにはされる側の立場に立ったっていいでしょ?
「願い事三回唱えれば叶うかな? あーい」
ずるい、と恋人の表情が訴えている。別に激しくなくても……いや、それはそれで嬉しいし、燃える。
「あーい」
一瞬視線を伏せた昇くんが、勢いよく距離を詰めてきた。背中にソファーの柔らかな感触が走る。
「あー……」
三回目の言葉は、押し倒した勢いとは裏腹に優しく、けれど深いキスに飲み込まれた。
お題:流れ星に願いを
4/26/2023, 8:19:28 AM