「それもひとつの才能」
何もかも、平均よりもちょっとだけ上。
成績も運動神経も顔も。
適当にやっていてその結果が出せるのなら、それで良いと思っていた。
「器用貧乏」という言葉を知ったのは高校生になってから。
なにもかも卒なくこなせるのに、特別得意なことがないし、興味を抱いていることもない。
学校で仲良くなった連中は、身の程知らずな夢を描いていたけど、それが羨ましかった。
だがそれは俺にとっては遠すぎるものだ。
才能がある者や、青春を犠牲にして血の滲むような努力をし続けた者が叶えられるのだから。
「それもひとつの才能だと思うけどなぁ」
幼馴染はそう言ってくれるけど、何もかもトップレベルで出来るわけではなく、あくまでも平均よりもちょっとだけ出来る、程度だ。
「いやいや、そういう何もかもバランスよくっていうのが、なかなか出来ないことなんだってば。昔からすごいなぁって思ってたよ。ほんとに!」
そういうもんかなぁ……
「まぁ、進路調査は困るだろうけどねー」
「そうなんだよ……」
俺は頭を抱えた。
提出日は明日。
「もう、適当に『地元の大学進学』って書いとけば?」
「ううーん……」
「三年になっても思いつかなかったら、いっそ私と同じ大学にしても良いと思うし」
「……え」
思わず幼馴染の顔を見つめると、彼女は頬を染めた。
「冗談だってば!」
「あー、うん」
そうだよなぁ。保育園から大学まで同じとか、ちょっと……どうなんだろう。
いや、でも……
こいつのいない生活って、なんか想像できないな。
「もうほんとテキトーでいいと思うよ。まだ一年なんだし。大学進学だけで良いんじゃないかな。野球部でもないのに『大リーガー』とか書いてるあいつよりはマシだと思うよ」
「……たしかに」
────飛べない翼
11/12/2024, 4:16:25 AM