#06 いつまでも捨てられないもの
3月、厳しい冬の寒さも和らぎ
陽の光も暖かくなってくるこの時期。
僕は新生活を始めるための準備をしていた。
都内の大学に受かって念願の一人暮らしが始まる
ワクワクとドキドキで今にも張り裂けそうだったが
荷造りを楽しんでいることに違いは無い。
そんなとき、あるものを見つけた
「くまちゃんだ」
幼稚園に入る前、人見知りで寂しがり屋の僕に
おばあちゃんがくれたお友達。
こんなところにあったんだ。
と思いながら、大切に手に取った。
埃まみれで色素もだいぶ落ちてきていたくまちゃん
捨てようかとも思ったけど、これだけは捨てられなかった。
だって、おばあちゃんが作ってくれているのを
当時の僕は知っていたから。
久しぶりの手芸で手に怪我をしながらも
僕のために作ってくれてたから。
寂しい時、楽しい時、お母さんに叱られたとき。
どこに行くにも
このくまちゃんは僕に味方してくれた。
捨てられるはずもなく、
洗濯して新居に連れていくことにした。
この選択をしたことに僕はふとこう思った。
寂しがり屋であること、おばあちゃんが大好きだということ、そしてこれらの思い出という宝物はいつまでも捨てられないものなんだ。
しぐれ
8/17/2024, 1:59:59 PM