あるまじろまんじろう

Open App

 死体は目立たない小部屋に安直されていた。死んだのは自分である。累々と横たわる自分の顔を少し離れたところから見ていた。
 葬式は人知れず行われた。火葬場で形ばかりに遺影や供花が並べられた、参列者のいない、形だけの弔いを自分はまた、離れたところから見ていた。
 へらへらと締りのない口元で笑う遺影をみる。ああ、自分の写真だ。SNSで使っていた写真だ。 
 仕方ない。家出してから関わる人間は、すべてSNSで出会った。両親は自分を探さなかった。一度も家に帰らなかったし、知らないままでいたかったのもあって、自分も両親の現在は分からない。
 そんなだったから、死体で見つかった自分の名前を、結局警察は突き止められなかったみたいだ。自分を司法解剖した法医学者が参列したとき、彼女は自分を〝カナリヤさん〟と呼んだ。SNSで使っていた名だった。
 
 その日検死に現れた遺体は、素性の分からない家出少女のモノだった。彼女は殺されていた。捜査を経て出会う彼女の知り合いたちの中に、彼女の本名を知る人は一人もいなかった。



誰もがみんな

2/10/2024, 11:21:53 AM