「ススキ」
なんとなく家に帰りたくなくて、いつもとは違う道を歩く。
丘の上の学校から麓の家への道は二つあって、普段は急な下り坂を一直線に下って帰るけど 、今日は緩やかな下り坂。
最近まではジリジリと身を焦がすような暑さだったのに、急に寒くなって長袖が欲しくなった。
まったく秋はどこへ行ってしまったのか。
人通りのほとんどない枯れた道。
私を追い越して伸びる影。
静けさに虫の声が沁みる。
―世界に私だけが取り残されたかのような。
ふと、何かが耐えられなくなったかのように涙が堰を切って溢れ出す。
そんな時だった。
金色の絨毯。
一面のススキはそう呼ぶに相応しい。
ススキの穂が風に倣って皆同じ方向を見つめている。
いつの間にか全く知らない場所に来ていたけど、どこか安心している自分がいて。
涙は自然と止まっていた。
夕日がススキを照らす。
シルエットが浮き彫りになる。
金色だったススキに影を落とす。
夕焼けが暗闇に呑まれていく。
今日が終わる。
今日が終わってもまた明日、明後日と続いていく。でもそれでもいいと今なら思えた。
「また、来ます」
ススキが手を振るかのように風が吹いた。
11/10/2024, 12:15:41 PM