煌紅

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「君の背中」

母さんは今日もいない。
キッチンから聞こえる包丁の音は兄ちゃんのものだ。トントン、グツグツ、ピー、ガタガタ。色んな音が聞こえてくる。ここ最近では、「痛ッ」とか、「適量ってどんだけだよ!」とか、「は?期限切れてんじゃん。」とか、一人で壁に向かって怒ることが少なくなった。
僕は知っている。兄ちゃんは、僕のために部活の帰り寄り道をしない事。部活で疲れていても睡魔と戦いながらご飯を作ってくれている事。僕には言わないけど、前よりも頼もしく感じる背中が語っている。僕はその背中を見るだけじゃなくて、いつか隣に立って料理をしたい。お前にはまだ早いよと言われるから、早く大きくならなくちゃ。

母さんは今日もいない。
キッチンから聞こえる兄の音は、今日はやけに軽やかだ。

2/9/2025, 1:11:38 PM