なぎさ

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一人だとできるのに、みんなといると勇気が出ずに自分から「やる」と言えない…そんな経験、ありませんか?
私も、よくそんなことがあります。それは本当に勇気のいることだけど、一人だとやるしかないから迷わずにできるのです。でもみんながいると「誰かがやってくれるかも」「やると言ったら変人扱いされるかも」と余計なことを考えてなかなか踏み出せなくなるのです。

この日もそうでした。私たちはご飯を食べる前に少しばかり危険をはらむ行為を一人がしなくてはいけないのですが、立候補者がいつまで経っても出ないのです。
「おい誰かやれよ、俺はこの間やったぞ」
「前の人が進まないと食べれないだろ、はやくしろ」
後ろにいる人たちが選ばれることはないことをいいことに文句を言ってきます。まあこれもいつものことです。
だけど今回、私はかなり前にいました。かなり…というか、最前列というか。このままでは押されてしまうかもしれないと考えた私は、それでも黙ります。
集団の中にとても気まずい空気が流れました。誰かが行かないと、ご飯を食べられない。でもそれはかなり危険で、誰もやろうとはしない。私たちは最悪なループの中にいるのです。
この調子で行けば、やがてみんなで飢え死にです。そもそも、体力があるうちにいかなければ危険性もどんどん高まっていきます。
だけど私はなかなか踏み出すことができませんでした。これが集団の人気者だったら感謝されるのでしょうが、そうではない私はきっといい子ぶってると言われて終わりです。
みんなのために行ったのにウザ扱いされる。こんなに悲しいことはありません。それを考えると、どうしても口を開けないのです。
とそのとき、私の脳裏に愛する人が浮かびました。彼女は自分でご飯を食べに行けないのです。今の時期は食料は男が調達することになっていました。ジェンダー平等もいいところです。
でも、彼女のためにも行かなければいけません。周りの目を気にして動かないようでは、どうして彼女を守れるのでしょうか?
そんな偉そうなことを考えて踏み出そうとしたものの、やっぱり私は動けませんでした。怖いのなら、体は実に正直です。
あぁ、これだから集団行動は嫌なのです。一人なら臆せずに行けるというのに。

…え? その危険な行為とはなにかって?

それはですね、飛び降りるんですよ───崖から。

仕方ないでしょう、魚のいるのは海で、私たちペンギンは陸にいるんですから。下にアザラシがいるかもしれないのに飛び込む勇気を持てる人…あ、いや、ペンギンはなかなかいないでしょう。
あ、あなたが代わりに行ってくれます? それなら一番いいのですが。

───ほらね、嫌でしょう。海に落ちたときの衝撃と食べられるかもという恐怖は本当にぬぐいされないものだと思いますよ。
あ、誰かが行ってくれるみたいですね。ありがたいものです。私はやっぱり、誰かといるとダメになるんですよ。それでは、愛する妻と子のご飯を取らなくてはいけないので、失礼します。

───「だから、1人でいたい」

8/1/2023, 7:52:53 AM