【あじさい】
窓の外では絶え間なく雨が降り注いでいる。憂鬱な気分でそれを眺めながら手元の雑誌のページをぱらぱらとめくっていれば、スマホをいじっていたはずの君の顔がすぐ横に近づいていた。
「あのさ、今から出かけない?」
「え。嫌だけど」
反射的に返していた。そもそも私が梅雨を大嫌いなことなんて、とっくに君は知っているはずなのに。少しだけ心がモヤモヤとする。そんな私の目の前に、君のスマホが差し出された。
「これ、すごく綺麗だったから。君と一緒に見てみたいなって思ったんだ」
どうやらSNSに投稿された写真らしい。青と紫の満開の紫陽花を雨雫が美しく彩っている。あまりに幻想的な風景に、思わず息を呑んだ。
「もちろん無理にとは言わないけど……」
不安そうに眉を下げた君の様子がいじらしくて、そっとその手を取った。外では周りから頼りにされる優等生の君が、私の前でだけはいつもこうして素直な幼さを覗かせてくれる。だから私も、君となら一緒にいても良いかなって思えるんだ。
「良いよ、行こっか」
雨の日に出かけるなんて、君とじゃなかったら絶対にしないけど。だけど君と二人で傘をさして、並んで見る紫陽花はきっとこの上もなく麗しい。嬉しそうに口元を綻ばせた君の笑顔に、何故だか私の気持ちまで晴れやかになった。
6/13/2023, 11:29:49 AM