夜間

Open App

行かないでと、願ったのに




番傘を片手に、きっとアイツが好きな、派手な花を片手に俺は、墓所へと向かう。

時代は大きく変わり、もう俺たちなんて存在しないも同然になった。

人は死ぬ。当たり前のことだ。当たり前すぎて、何も感じないほどに。

けど、お前は。行かないでと、願ったのに。

やっとの思いで辿り着くも、足が重くて思うように歩けなくなってしまった。

これは墓所に来た呪いではなくて、悲しいという感情を抱いているからだろう。

お前がいないと、あんなに騒がしかった日々が来ないと痛感してしまう。どうして、死ぬのがお前なのだろうと何度も自分を憎んだ。

だが、お前が生きて俺が死んでたとしたら、お前だってそう思うだろ。

置いてかれた方は、置いてった方を恨むのではなくて、自分を恨むものだ。

「……左之助」

死人が多く出たせいで、墓は質素だった。若くして死んだからだろうか、知人が多いのかたくさんの花が添えられていた。

いいな。お前は、人気者で。俺は、俺の周りには、何もいなくなってしまったよ。

「なあ、覚えてるかお前。腹減りすぎたからって花食いだしたこと」

そっちでも腹が減った時のために、茎と花を切り離す。

「……行かないでって、言えばよかったか」

今更しても遅い後悔は、その時点では後悔すると微塵も思っていなかった。

左之助が生きているのは当たり前だと思っていたから。

俺だけ生き残ってしまった感覚に陥る。いや、俺以外死んでしまった。

みんな戦って、生涯を刀に捧げて。

俺はその想いが足りなかったのだろうか。俺は、もっと刀に忠誠を誓えばよかっただろうか。

「左之助、お前さえ生きていれば、一緒に皆の墓を廻れたのにな」

不謹慎だと言って、左之助は俺の頭を叩いてくれるだろうか。

あの日とは違って、忌々しいほどに日差しが俺を照らしている。

何故、天は俺を見る。

花を何輪か墓の前に置いて、死者への冒涜をする。いや、元々していたか。

左之助が隣にいた頃は、言葉にしなくても伝わった気がしたが、今は言葉にしないと伝わらない気がして、無口な俺は消えてしまった。

「俺は、もう行くよ。……他の人の墓も廻らないと」

立ち上がって左之助の墓を見ると、いつもよりもさらに低い目線で見つめないと視界に入らなかった。

不意に、喪失感に心が襲われた。左之助は、こんなにも変わってしまったのだと。

「ははっ、左之助お前、そんなに変わったしまったか」

紛らわせるために声に出してみたものの、それは逆効果だったようだ。

目からは涙が零れ落ちる。俺は、俺はどうすればいいのだろう。

「左之助、まだ、俺を見ててくれよ……」

まだ、まだ行かないで。

俺は叶いもしない願いを心の中で、願う。

11/3/2025, 2:37:33 PM