ゆかぽんたす

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昼過ぎから雨が降っていた。天気予報なんて見ないアイツはおそらく傘を持っていってないだろうから、駅の改札まで迎えに行くことにした。
17:00ジャスト。間もなくして、彼女の乗っているらしき電車がホームに滑り込んでくるのが見えた。人が疎らに階段から降りてくる。ちゃんと傘を持っている者は半数以上だった。残りの、持っていない人はそのまま隣のコンビニに行ったりタクシー乗り場に並んだり。
アイツはもし、俺が迎えに来なかったらどうするつもりだったのだろう。ふとそんなことを考える。考えているとその人物が階段からゆっくりとしたペースで降りてきた。
「あれ、なんでいるの?」
「迎えに来てやったってのにそんな言い草はなんだ」
ほら、と持ってきた黄色い傘を渡す。隣の家同士ってだけでここまで世話焼きな俺もどうかしてると思う。俺は暇人以外の何者でもない。こいつの彼氏ですらない。
「ありがとう」
ぼそりと呟いて俺から受け取った傘を開いた。黄色い花がぱっと雨空の下に咲く。でも、そんな元気な傘とは正反対に、彼女は背を小さく丸めていた。いつもより明らかにテンションが低い。
「今日、告白したんだけど、フラレちゃったの」
言いながら彼女は歩き出す。俺もやや斜め後ろをついて行く。傘のない高校生の集団が自転車に飛び乗って全力立ちこぎしてゆくのが見えた。喧騒はおさまり、雨音と俺達の足跡しか聞こえなくなる。また1つ、彼女が口を開いた。
「傘、ありがとね」
「別に」
「もし無かったら、このまま濡れて帰るつもりだったんだ」
そんなことしたら風邪引くだろうが。俺は正論を言おうとした。でも、斜め前の黄色い傘が小刻みに震えていた。それが分かったから、言えなかった。じゃあ他に何を言えば良いだろうか。考えても、うまい言葉が見つからなかった。失恋と雨は似合うな、なんて、場違いなことを思いながら、家につくまでずっと、俺は彼女の斜め後ろを歩いているだけだった。


6/4/2024, 2:06:11 AM