白糸馨月

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お題『ラララ』

 実家へ向かう駅の階段を降りていく時点でアコギのうるさいほどの生演奏と絶妙に音程が外れている歌声が聞こえてくる。
 あぁ、今日も隣の家の幼馴染(自称ミュージシャン)が歌ってるんだと分かる。
 だが、実家に向かう道のりはこの階段を降りるしかなく、仮にエレベーターを使ったところで彼から姿が見えるのは明白。
 私は仕方なく階段を足早に降りていく。
 幼馴染の曲は知っている。聞いてもいないのに「新曲出した」と言って感想を求めてくるから。もうすぐ一番聴くに堪えないサビがやってくる。
 私は駅から出た瞬間、走ろうとした。が、
「Hey,Baby! そんなに急いでどうしたんだい!」
 と声をかけられてしまった。ここでサビ前に客を煽るやつをいれるな。観客0人のくせに。あぁ、ここで目が合ってしまった。
 あえて遠くから見ていると、なんと彼がこちらに近づいてくるではないか。しかも肩を組まれた。
 あぁ、曲が盛り上がる。もうすぐ来る。
「らぁーらぁーらぁー」
 だから跳ね上げるなよ。しかも無理矢理横に揺らそうとするな。でもさすがにつかまれたらもう逃げられない。
 彼と一緒に揺れる私。私たちに一瞥もしない通行人。
「ら、ら、らぁー」
 一緒に歌いながらもう私は諦めの境地に立っていた。

3/8/2025, 2:44:24 AM