わたあめ。

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秋になってくると日も短くなり、仕事から帰宅する頃には外はもう暗い。

家の明かりや街灯がつき始め、夜道を照らすようになる。明るかった帰り道が暗くなり少し寂しさもあるが、住宅街を通ると子供の楽しそうな声が家から聞こえてくる事もあるので、嫌いではなかった。

その日も、定時よりは少し遅れて退勤して、帰る頃にはもう夜になっていた。

一軒家の家から子供のドタバタと走る音やお母さんの声。色々聞こえて来ると同時に平和を実感する。

微笑ましいなと思って歩いていると、とある家が目に入った。
あかりがついていない平屋。
だが、窓は開いていてカーテンが風になびきゆらゆらと揺れている。

不用心だな、と思いつつその部屋を見るとカーテンがめくれ部屋の中が見える。

すると、女の子が泣いているのが見えた。

可哀想に思い、声をかけようかと平屋のそばに行こうとするとふと違和感を覚えた。


部屋の中は真っ暗なためなんにも見えない。


なのにどうして、 “女の子“ だけはっきりと見えるのだろう。


何か嫌な予感がした時にはもう遅く、

窓を見ると女の子がこちらを見ている。

急に寒気がした。
立ち去ろうにも目が合っているせいか、動けなかった。足が地面とくっついてるかのように動かすことが出来ないのだ。

目はクリクリとしていて、髪は長い。
お化けのようにおどろおどろしい姿はしていないが、動きがなんだかゆらゆらとしている。
きっとこの世のものではないのだろう。

そんな心霊経験をした事もなかったので、為す術なくその場に立ちすくんでいた。


ゆらゆらと揺れる女の子の動きがピタリと止まる。


ゴクリと唾を飲むと女の子が口を開いた。


「た、……たすけ、」


ビュオオオッ

女の子が何かを言いかけた途端部屋から風が吹く。
体も動かないので目をつぶって風を凌ぐしかできなかった。



風が止み、窓を見ると女の子の姿はなく何も見えない真っ暗な闇となっていた。

足も動くようになっていたので、早々に家へ帰宅した。



あとから近所の人に聞いた話では、どうやらそこの平屋にはある一家が住んでいたらしい。

最初は平和に暮らしていたものの、父親の浮気から始まり、離婚、そして母親の暴力により一緒に住んでいた娘さんが亡くなったそうです。
母親も逮捕され、その平屋はそれ以来誰も住んでおらず、空き家のままだそう。

一時期ニュースでも取り上げられていたらしいが、だいぶ前のようで見たことは無かった。

そして、父親と離婚したあと、母親が仕事に出ている間の夜は、女の子の鳴き声がここ近所に響いていたらしい。

もしかしたら、亡くなった今でも誰かに助けを求めているのかもしれないと思うと、胸が苦しくなった。

#カーテン

10/12/2023, 11:41:54 AM