回りは闇に包まれている。
どこを見ても黒一色の世界。
明かりはないが何処に立っていて何処が歩けるのかはわかる。
気付くと目の前にはこの世界で唯一黒以外のものがあった。
白い糸だ。
その糸は白く、細い。
風が吹いたならすぐに切れてしまいそうなくらいに頼りない。
その糸は真上から降りてきている。
黒の空から一本だけ降りた白。
まるで有名な文豪が書いた小説の場面のようだ。
まあ、上が天国とか極楽浄土とかそんなものではないと分かるからただ似ていると言うだけ。
僕はその糸を自ら千切った。
思っていたより手応えのある糸だった。
千切れた糸は黒に溶けていく。
もうこの世界に『白』は存在しない。
何処を見ても黒のまま。
何も聞こえない。
何も居ない。
自分だけ。
もし、明日が晴れたらなんて考えることはないんだ
明日も何もこの黒が晴れる事なんてないのだから。
もし晴れる事を望む時が来るのなら
あの時千切った糸を探すのだろうか?
その時には、あの糸はもうないのだろう。
「チャンスの神様は前髪しかない」と、誰かが言っていた。
僕はそのチャンスを逃したんだ。
自ら消した。
自業自得。
これこそ自作自演の悲劇のヒロインだ。
もし、明日晴れたなら…掴む事が出来るのだろうか
今日の空は霧の空。
8/1/2023, 1:34:45 PM