『「ごめんね」』
友達が海へ消えていった。
まだ見つかっていないらしいが、夜近くの道を車で走っていた人が見かけたらしい。
一人のはずなのにやけに楽しそうで。時折誰かと話している素振りも見せた。何か練習でもしてるのかと思ったら、海から現れた手に引かれて消えた。
見間違いだと思うんだけどね、とその人はこっそり私たちに教えてくれた。
「人魚さんがね。私を仲間にしてくれるんだって」
不思議ちゃん。それが友達の第一印象だった。
「人魚なんていないよ」
「ええ? いたよう。話しかけられたんだよ」
「嘘だあ」
私が眉をひそめると、少し考えて友達は言った。
「じゃあ私が仲間になれたら、菜乃ちゃんに海から声をかけるよ」
友達が消える数日前のことだ。
きちんと話をすればよかった。ごめんね。
どこでそんなこと話したのか聞けば良かった。ごめん。
一緒にいけばよかったね。
「ごめんね」
どんなに後悔を重ねても、まだ友達の声は聞こえてこない。
5/29/2024, 11:19:00 PM