目が覚めると夢の中だった。
そうとしか言いようがない感覚だった。
ここは勤め先だ。目覚めの一杯として、業務用の安いインスタントコーヒーを入れ、飲む。
意識がはっきりして、物に触れ、香りがして、味覚がする。それでも夢だと確信できたのは――
「こんなことしてる場合じゃないから」
僕は納期直前で致命的なミスをして、リカバリーに追われていた。
部長に泣きつき部署の人員総出で復旧作業に掛かりながらもう少しで終わるところまで来ていた筈。
けれど周りには誰もおらず静かだった。
なんとなく、起きた時のいつもの習慣としてソシャゲを始める。時刻は朝の7:00。ログインボーナスを貰ったところで、今一度ここは夢の中なのか考える。
「もしかして夢ではないのでは」
そんな自問に答える声があった。
「ここは夢の中で、まだ目が覚めていないのか? それとも目が覚めていて、ここが現実なのか? どっちがいい?」
気が付くと部長が後ろに立っていた。――なるほど。
「夢か」
「現実だよ馬鹿たれ」
部長が僕のパソコン画面を覗き込む。
「終わってるな、よし」
どうやら無意識下で仕事だけは終わらせていたらしい。部長の寝癖からして仮眠室で寝ていたのだろう。多分手伝ってくれた部署の皆も。
「目覚めの一杯入れてくれ。それとゲームしてた件について申し開きを聞こうか」
目が覚めると現実だった。
[目が覚めると]
7/11/2023, 2:18:53 AM