#ところにより雨
どうしてか、この一帯だけ雨が降っていた。
さっきまでの空が嘘みたいに、静かに、確かに濡れていく。
予報にはなかったはずなのに、傘なんて持ってきていないのに。
濡れること自体は、嫌いじゃない。
けれど今日に限って、それが妙に心に触れた。
肩を叩かれる。
振り返るより先に、澄んだ声が届く。
雨音のノイズに紛れることなく、まっすぐに耳の奥へと落ちてくる。
「ところにより雨、だって」
翳された傘の内側で、
悴んだ指先に、ゆっくりと血が巡る。
ところにより、なんて。
こんな曖昧な線引きでは足りない。
いっそ、このまま強く降り続けばいい。
境界なんて消してしまうくらいに。
そうしたら、きっと貴方は
今みたいに、理由もなく隣にいてくれる。
――それだけでいい、と言えたらよかったのに。
もし許されるのなら、
この雨ごと、貴方を引き留めたい。
濡れてしまえばいい。
戻れなくなるくらいに。
そのまま静かに、
ふたりで、同じ深さまで沈んでいけたなら。
3/24/2026, 11:50:20 AM