弥梓

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『眩しくて』

※BL
スパダリ年下攻×考えすぎる年上受



太陽の光を受けて君の金色の髪がいっそう輝きを増す。
それが眩しくて、僕は顔を背けてしまった。
暗いところが相応しい僕たちは、似たもの同士だと思っていたのに。君はいつのまにか光の下で朗らかに微笑むようになってしまった。
置いていかれる寂しさと、明るい道を歩み始めた君の幸せを願う気持ちと、いつか、いつか君の隣に立つ光の似合う誰かを想像しては嫉妬で気が狂いそうになる。
「どうしたんだ?」
「少し眩しかっただけだ」
僕の様子を訝しんだ君が近づいてくる。
嬉しいけど、こんな醜い僕を見ないでほしい。
君の右手が僕の頬に触れる。暖かな温もりが僕の心をかき乱す。
「暑さにやられたか?」
「本当に眩しかっただけだよ」
答えながらも、君の目を見ることは出来ない。君の綺麗な青い瞳を間近で見ることが大好きで、僕だけの特権だったのに。
きっとこの特権はすぐに僕だけのものじゃなくなる。
それが分かるから君の目を見ることも怖くなってしまった。
僕だけのものじゃなくなるなら、君の目をくり抜いて僕のものにしたいなんて、そんな気の狂ったことを考えている僕を知られたくない。
目を合わせない僕に、君は苛立って舌打ちをした。左の手が伸びてきて僕の手首を掴んだ。骨が軋むほどの痛みが、君の僕への執着の証のようで、安堵の笑みがこぼれてしまう。
「今更、逃げる気か?」
「君との関係に少し飽きてきたのかも」
「お前……そんな泣きそうな顔で言って信じると思ってんのか?」
「そんな顔してない。君のことはもう飽きた。別れたい。こうやって僕に触れるのもやめてくれて」
言いながら自分でも声が涙で震えて情けないことになっていくのは分かった。情けない。年下の君にこんな甘えてばかりで。そう思うと惨めな気持ちまで湧いてきて、どんどん声も震えてしまう。
「ったく、どうしたんだよ? 最近変だぞ」
「……君を、君を好きになりたくなかった。こんな気持ち知らないままでいたかった。もう、嫌なんだ、君といると自分の嫌なところばかりに気付いて、僕は……僕は……」
大きなため息が頭の上から聞こえてくる。ああ、嫌われた。こんな面倒なやつそりゃあ嫌になるだろう。
情けないことに、涙が溢れそうになって、それだけは堪えようと唇を噛み締める。
頬に触れた手が離れて、手首を掴む手の力が緩んだ。
君の熱が離れてひんやりとした空気に、心の奥まで冷えた心地がした。
「ばーか」
そう言った君の声はずいぶんと優しくて、思わず顔を上げてしまった。
海のような深い青が僕を見ている。僕のすべてを包み込む青に、昏い気持ちも呑み込まれてしまう。
君の左手が僕の腕を引っ張って、倒れ込む僕の背中に一度離れた右手が回されてぎゅうっと力を込めて抱きしめられる。
暖かい。
君の匂い。
大好きな君。
「君の幸せを願いたい。君には幸せになってほしいって本気で思うのに。僕以外の誰かと幸せになる君を思うと、どうしても願えないんだ」
「ほんっとにバカだな、お前は」
「分かってるよ、好きな子の幸せを願うことすら出来ない愚かな人間だってことくらい」
「そうじゃねえ。俺が好きなのはお前だし、一緒に幸せになりたいのもお前だけだ。そんなことも分かってなかったのかよ」
「今は、だろ」
「はぁ?」
「君は変わってしまった、僕みたいなやつと釣り合ってた君はもういないんだ」
「釣り合うとか意味わかんねえが、俺が変わったとしたらお前のせいだろ。お前が俺を変えたんだ」
そう言って僕にキスをする君は、やっぱり眩しすぎて、僕は眩しさに目を灼かれないよう瞳を閉じた。

7/31/2025, 5:20:50 PM